■ reverse 02 |
ソルジャーフロアに降りてきたセフィロスの姿を確認し、クラウドはソファから立ち上がった。 「行くぞ、クラウド」 「ああ」 「…どうした?何かいい事があったのか?」 クラウドの顔を見るなりセフィロスはからかうように口角をあげた。 「別に」 「ポーカーフェイスを気取っても機嫌がいいのが俺にはわかる。いったい何年、気高い猫の世話をしたと思っている」 そう言いながらセフィロスは長い指先でクラウドの顎をあげる。だがクラウドは視線だけを残し、その指先をフるようにすぐに顎を外した。 「…一応は4年、だな。もっともその間、俺に直接ソルジャーのなんたるかを指導したのはアンジールだ。俺以上に気まぐれなアンタは俺をからかって遊んでいただけだろう」 「懐かない猫は可愛げが無くてな」 「アンタに可愛がられたくなんかないね」 「では、猫は止めて今度は犬にしてみるか」 「犬…?」 セフィロスの揶揄に何のことかとクラウドは再び顔を向ける。すると、セフィロスはガラス張りで筒抜けになっている対面の通路を指差していた。その先にいたものにクラウドは目を見開く。 「ザックス?」 何を思っているのか、ザックスは顔を真っ赤にして歯を食いしばり、ガラスにベッタリと張り付いたままコチラを睨んでいる。その様子は今にもガラスをブチ破って飛んで来そうな勢いだった。 「駄犬、だがな」 「ザックスを駄犬と言うな」 「駄犬だろう?3rdの分際で俺に勝負を挑んできた奴だ。負けた後も「いつかボコボコにしてやる」と息巻いていたので待ってやったが、いいかげん待ちくたびれたな。そろそろ中間報告でもしてもらおうか」 「中間報告?」 セフィロスは、何の事か分からずに眉を潜めるクラウドの襟を無言で掴むとそのまま軽く持ち上げ、その油断した唇に自分のものを重ねた。 『セーーーフィローーーーーース!!!』 途端に声を通さないはずのガラスを嫉妬の怒りで振るわせ、ザックスの悲鳴にも似た怒りが響き渡る。 その声にやっと意味を理解したクラウドが、慌ててセフィロスの腕を振り払った。 「…相変わらず趣味が悪いな、アンタは…っ!」 「3年前、『クラウドと一緒に住んでいた』と言っただけでアイツは嫉妬で怒り狂った」 「!?あの勝負はアンタが煽ったのか」 「あの子犬はお前に一目惚れらしい。嬉しいか?」 「アンタに言う必要はない!」 クラウドは携帯を出すを、ザックスに連絡しようと番号を押す。 何かを喚きながら強度な防弾ガラスをガンガンと叩き、しまいには剣を振りかざそうとするザックスを止めなければならない。 「落ち着け、ザックス!」 だが、クラウドがコールするよりも一足先にザックスの元へ駆けつけたアンジールが、乱心する子犬に鉄拳を食らわし一撃で床に撃沈させた。 その様子にクラウドはホッと一安心する。 そして遅ればせながら鳴ったザックスの携帯をアンジールが取ると、ガラス越しにクラウドとセフィロスを確認してから応答した。 『クラウドか?』 「ああ。ありがとう、アンジール。助かった」 『何事だ?と、聞きたい所だがお前はもう出立の時間だな。まぁ、どうせまたセフィロスがいらんチョッカイを出して遊んだんだろう。後でザックスから聞いておく』 「…すまない、頼む」 『気にするな。気をつけて行って来い』 用件だけ使え終えるとアンジールは電話を切り、クラウドに軽く手を振る。そして、クラウドの隣にいるセフィロスに拳骨のしぐさをすると、床に撃沈したザックスを抱えてトレーニングルームへと入っていった。 「…やれやれ…またアンジールにお説教をされそうだ」 大げさに面倒臭がるセフィロスにクラウドはため息をついた。 「アンタの場合は自業自得だ」 世界では名の通った世界最強の戦士であるセフィロスも、数少ない親友の前では普通の人間に戻る。彼も普通の人間なのだ。それに気がついた時からクラウドはセフィロスを見る目が変わった。 不思議と何をしても憎めない存在であるのは確かだが、こうした悪戯はいささか過ぎるとは思う。 「…ザックスで遊ばないでくれ」 釘を刺すように言い切ると、ジュノンへと向かうためクラウドはエレベーターへと向かった。セフィロスがその後に続く。 「そういえばクラウド、お前は毎朝アレに起こしてもらっていると話に聞いた。本当なのか?」 「下世話な質問をするな。英雄の名が泣くぞ」 「英雄とは退屈でな」 エレベーターへと入ると、クラウドが飛空挺の待つ屋上のスイッチを押した。ガラス造りのエレベーターが音も無く静かに上空に向かって動き出す。 「お前は朝が最も強かったはずだが?」 「……」 セフィロスがクラウドの教育係となっている間、クラウドはセフィロス以上に時間に正確だった。1stにもなった今、それが鈍るはずがない。 クラウドは答えはないまま、エレベーターは軽い電子音を立てて屋上へと到着する。 目の前で扉が開き、そこを抜けようとしたクラウドは一瞬だけセフィロスを振り返ると薄く綺麗に笑ってみせた。 「さぁな、いつの間にか苦手になったらしい」 「……っ」 その確信犯の笑みにセフィロスは一瞬絶句する。クラウドはそれに満足そうに目を細めると、何事も無かったように飛空挺へとしなやかに歩き出した。 「……フッ、楽しんでいるのはどっちだ」 さぞかしあの駄犬は苦労するだろうなと、セフィロスは翡翠の目を面白いものを見つけたように細め、クラウドの後について歩きだした。 あれは3年前のこと── クラウドはパネルの中に小さな太陽を見つけた。 以来、その太陽が日増しに暖かく逞しくなっていくのを、心の中で楽しみに待っている。 いつかその太陽が自分だけに降り注ぐ事を願う芽は、まだ土の中に隠したまま。 その芽が太陽の力で芽吹く日を、今か今かと待ち続けている。 end. |
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