■花と太陽と金色チョコボ 
04 ナイトロッド

 



 目が覚めると、俺はセブンスヘブンの自分のベッドの中だった
 部屋はすっかり明るくなっていて、時計を見ればすでに昼近い。
「…まさか」
 寝過ごした事よりも、昨夜の出来事が夢だった不安に駆られて、慌てて身支度をすると階下に降りた。
 下の店では楽しそうな女同士の声が聞こえてくる。声の主はティファと…
「おはよう、クラウド」
「おはようクラウド。お寝坊さん」
 …良かった、エアリスだ。夢じゃなかった。
 ホッとして肩の力を落とすと、カウンター席に座ったエアリスがクスクスと子供っぽい笑顔で笑う。
「大丈夫、私達、消えないよ?」
 昨夜、ザックスに言われた同じ返事が帰ってきた。

「コーヒーを淹れるわ。クラウドも座って」
 カウンターの中のティファは少し困ったように笑った。俺、そんなに不安定そうに見えるんだろうか…見えるんだろうな、きっと。
 自信のない溜め息をついて、エアリスの隣に座ると髪を撫でられた。
「寝癖、ついてるよ? うーん、直らないなぁ」
 上手くいかないらしく諦めると、両手をあげる。
「降参!ザックスが帰ってきたらやって貰って?」
 なんでそこでザックスの名前が出てくるんだと思いながら、自分でエアリスに撫でられた所を手直ししたがエアリスは首を振る。たぶん、直ってないんだろう。
 もういいやと諦めて、ティファのコーヒーを口にした時、店の外からバイクの止まる音が聞こえた。
「あ、帰ってきたんじゃない?」
「うん」
 2人の頷き合いに首を傾げていると、店の扉が開き『ただいまー』の声と共に現れた黒い物体。
「ザッ…」
 一瞬、誰かと思った。

 ザックスは新しい服を着ていた。黒いトップスとボトムは神羅の制服と類似してるが、それに追加されてるのは黒のロングコート。
 いつも見ていたザックスの腕が隠れるのはどこか新鮮だけど、なぜだろう…どこかセフィロスっぽく感じるのはコートのせいなのか?
 でも、その背にはバスターソード。ああ、やっぱりザックスにはバスターソードが似合う。
「なかなか似合ってるわよ、ザックス」
「マジ?いや、ソルジャーの格好だと世間の目が冷たくてさー、服替えただけでだいぶマシになったよ」
 ティファに返事をしながら俺とエアリスの間に立つと、俺の髪を梳き始める。エアリスが寝癖があると言った場所。
「おはよう、クラウド。よく眠れたか?」
 ザックスが何度か梳くと、それを見ていたエアリスが『あ、直った』と呟いた。どうやら俺の寝癖を直してたらしい。
「ザックスもコーヒー飲む?」
「いや、もう行くよ。バイクも買ってきたし、早くエアリスをエルミナさんに会わせてやりたい。 エアリス、出られるか?」
「うん、ありがとう」
 エルミナさんはエアリスの育ての母で、今はカームで孤児院をしている。帰ってきたエアリスを合わせるのは当然だけど、バイクを買っただって?



 4人で店の外に出て見れば、そこにはドッシリとしたスタイリングの車高の低い黒の大型バイク。
 ポジションが楽そうなそれは攻めの走りよりもツーリング向きそうだ。
「俺のナイトロッド。カスタマイズはこれからだけどな」
 ザックスが自慢気に新しい愛車に跨った。手足の長いザックス向きのバイクだが、見るからに高そうだ。
「アンタ…金はどうしたんだ?」
 服といいバイクといい、いったいどこから出資してきたんだ。
「ん?俺の金だぞ?昨夜、掘ってきた」
「は?」
 掘って…何だって?
「俺、貯金代わりに自分の金をミッドガルのあちこちに埋めてたんだ。ほら、神羅って信用ならねぇから」
 カラカラと笑いながら打ち明けるザックス。お前は冬眠前のリスか!
「地面に現金を埋めたのか?誰かに盗まれたらどうするんだ」
 しかも、バイクまで買える金額って、いったいいくら埋めたんだ。
 呆れながら言ったが、当のザックスはあっけらかんとしている
「見つけたらそいつが使えばいいだけさ。宝探しみたいで楽しいかもしれないだろ?元より回収するつもりもなかった金だけど、今回は大助かりだった」
 ああ、アンタはそういう奴だよな…
 欲が無いにもほどがある。


「ザックス、私どこに乗るの?」
 エアリスが首を傾げて聞いてくる。確かにエアリスの服はダンデムには不向きだなと思っていたら、ザックスは
ヒョイとエアリスを持ち上げた。

「エアリスはスカートだからここでいい。俺に捕まってな」
「うん」
「…!」
 あっさりと、当たり前のようにザックスの足の間にエアリスが横抱きにされる。もちろん不安定な姿勢にエアリスはザックスに抱きつく。
 その姿に俺の頭が真っ白になる。
 …なんだよ、なんだよそれ…
「…仕事に行ってくる」
 そう宣言すると踵を返して店の裏に止めてあるフェンリルに向かって走った。
 何か呼び止められた気もしたが、もう耳に入らない。

 なんだよ、なんだよ、なんだよ、アレ!

 フェンリルを発進させ、がむしゃらに走らせる。本当は今日済ませなければならいけない仕事なんて入っていない。
 だけど、これ以上エアリスとザックスを見たくなかった。

 服なら着替えさせればいいだろ。エアリスならティファの服が着れるだろ!膝の上とかって…!
 そこは俺の場所じゃないのか!ザックスのバカヤロウ!!

 もう泣きたくて仕方なかった。なのに泣けない。
 でもザックスの腕の中なんて絶対にイヤだ。
 なんで俺がこんな思いをしてるんだ。
 2人が生きて帰ってきてくれて嬉しい。本当に嬉しかったのに、今は苦しさしかない。
 こんな風に見せつけられるなら、さっさと振られたかった。
 エアリスを選んだのなら、はっきりそう言ってくれれば良かったんだ。ザックス!




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