■ それは時として起こる浅い衝動 02 |
「あの、さ…」 セフィロスの顔が近い。吐息が分かる距離だ。でもセフィロスはそこからピクリとも動かない。 どうしよう…少し落ち着けよ、なんて言える雰囲気じゃない。 「イライラさせたなら謝るよ。そんなに邪魔に…」 「そんな事はどうでもいい。お前が何を考えているのかを聞いている」 「何が、って…」 特に何も考えてない。それが本当だ。 「特になにも…」 「何も?」 「ああ、何も」 「…そうか…」 困り果ててそういえばセフィロスはわずかに目を伏せ、そして突然、俺の両足の間を抜き、棚を蹴った。 「?!」 ガン!という音がキッチンの中に響く。そしてセフィロスはその音にうろたえた俺の脚の間を割り、今度はさらに片膝を入れてくる。 「…な、んだよ…」 もちろん、それだけの事をすれば当然2人の距離は近くなる。息遣いが分かる距離、触れなくても体温が感じられる距離だ。 その至近距離で俺はセフィロスに脚を割られてる…認めたくないけど、その状況に俺の芯はわずかに反応した。何やってんだよ俺、そんな場合じゃないだろ。 「……」 そして急に黙ったセフィロスの片膝が偶然なのか俺の内腿を掠め、俺の身体はピクリと震えた。その気のない相手の行動が挑発に感じるほど悔しいものはない。くそ…止めろよ、こういうの。 「…ぉ…怒ってるんだよ、な?」 「……」 だったら怒鳴るなり、手を上げるなり何かしてくれ。この距離で何も言わず、ただ煽られるだけなのはむず痒くてたまらない。 「…なぁ…セフィロス…」 何とか視線は逸らせても、気を逸らす事は出来ない。セフィロスの視線を感じてチリチリと全神経が立ち上がってるんだ。不快とは違う…飛び込みたくなる、誘惑にも似た衝動。そんな場合じゃないのに。 「…なぁ!セフィ…ッ」 直接的なホールドで無くても、効果は充分… 「……!」 ああもう…!、限界!! 「いったい何なんだよ! 何がしたいんだ!! なんとか言えよ!!」 あ…。 思わず口に出た言葉に自分でハッとなった。 これって確か、さっきセフィロスが言った言葉だ。もしかしてセフィロスは… 「フッ…」 案の定、俺の反応に満足したようにセフィロスは口端をあげて笑うと、俺からスッと離れる。 「コーヒーが出来たら持って来い」 と、後ろ手に手を振るのは明らかに俺がした事の真似だ。 畜生!そういうことかよ! 「セフィロス!」 たまりかねて呼び止めると、セフィロスを追いかけ腕を掴む。 そのまま振り向かせ顔を近づけようとした瞬間、逆にセフィロスの片手で後頭部を鷲掴みにされた。 「ッ…!」 そのまま引き寄せられ、乱暴に唇を合わせられる。 「!!、んぅ…っ!」 強引に口内を割られ舌を絡み取られ舌裏を弄られる…啄ばむな甘さも、愛情に溢れた優しさも微塵もない、衝動のままの口付け。でもこれが、今のありのままの本音。 「…は…っ」 でもそれは俺も同じ。 だからセフィロスの背に腕を回し、しっかりと抱き合いながらお互いの口内を弄りあった。触れて感じる少し上がった体温と、乱れた息が心地いい。しっかりと回った腕も、その力も。 そうしてひとしきり口付けを交わした後、最後に互いの唇を小さく啄ばめ合う。これが仲直りと終わりのサイン。ここでこれ以上の事はできないんだ、今以上の熱はいらない。 「…ふぅ…」 吐息を吐きながら瞼を開くと、間近にセフィロスの視線があった。もうそこに怒りはない。 「…こうしたくなったんなら、言えばいいだろ。…やり返して来んなよ」 回しあった腕はそのままにセフィロスを見上げれば、セフィロスは緩く目を細めた。優しい目だ。 「人の気も知らずにただ眺めてるだけの奴に、それを言って通じるのか?」 皮肉めいた事を言って俺の顔を覗きこんでくる。まぁ、確かにね。俺は完全にそんな気はなかったから、下手をしたらチャカしたかもしれない。 「でもだからってこっちまで煽ってくることないだろ。危うく腰が抜けそうになったぜ」 「相手をしようか?」 「仕事中だろッ! 変な色気出すなよな! ほら行けよ、コーヒー持ってくから!」 パチンと背中を叩いてデスクへと押す。 仕事モードなセフィロスはそこまで箍が外れないと分かってはいるけど、生憎と俺はオフの途中。さっきの今じゃ冗談でも引火材料になりかねない。下手に引火して放置でもされたらと思うとゾッとする。 「ふぅー、やれやれ」 ちょっと大げさにため息をついて力を抜き、とっくに出来上がっていたコーヒーをカップに注いだ。 ったくよー、俺の方がリフレッショしなきゃいけなくなったじゃねーか。 …でも… 「……」 「な、セフィロス。仕事手伝おうか?」 「ん?」 「そしたら早く帰れるだろ?」 リフレッシュじゃ衝動は消えない。 ちょっと甘えてニコッと笑えば、今度はセフィロスも素直に笑った。 end. |
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