■ それは時として起こる浅い衝動 
01 

 

 セフィロスを見てた。

 その日は俺だけが非番で、でも特に何もする事が思いつかなかったからセフィロスのいる執務室に行った。
 そこで、デスクワークをしているセフィロスの真向かいに座り、黙ったまま、ただセフィロスを見ていた。
 デスクワークを淡々とこなす表情とか、陶器みたいな肌だとか、伏せ目がちだと一段と長く見える睫毛とか、外からの陽がキラキラ反射する銀の髪だとか、そういうもの。
 不思議だよなぁ、同じ人間だとは思えねーくらい綺麗。
 そんなことを考えながら、ただボーっと見てたら、形のいい唇が小さく動いたんだ。

「ザックス」
「んー…?」
「さっきから何をしている」
「ぅん…?セフィロスを見てる」
「黙ったままで飽きないのか」
「うん?…全然?」
「……」
 本当に飽きてなんかいなかったから素直にそう答えたら、セフィロスは眉間に皺を寄せて上目遣いに睨んできた。あ、やばい。これはご機嫌ナナメだ。
「ごめん、仕事の邪魔だよな」
「……」
 降参するように両手をあげ、デスクから離れる。特に嫌がりもしなかったから平気かと思ったけど、やっぱ鬱陶しかったか。
 時計を確認してみたらざっと30分以上が経っていた。あー、こりゃいくら人の目に慣れてる英雄様でもウザイはずだ。むしろ、よく我慢したな。まぁそれだけ見てて飽きない俺も俺だけどさ…
「美味いコーヒー淹れるから許せよ。ついでにちょっと休憩しようぜ?」
 後ろ手に片手をあげ、お詫びのコーヒーを淹れる為に簡易キッチンへと入る。
 棚からコーヒー豆をいくつか出すとセフィロス好みの豆をチョイスした。んー、機嫌が悪い時のリフレッシュにはやや酸味があった方がいいかな。
 慣れた作業でブレンドした豆を挽いてドリップのスイッチを入れれば、やがてコーヒーの香ばしい香りが立ち始める。
 よっしゃ、上出来!これならセフィロスの機嫌も直るだろ。さすが俺!俺にかかればセフィロスなんてチョロいもんよ!へへっ、俺ってすごくね?
「なーんてね♪」
 そんな調子のいいことを思いながらポタリポタリと落ちるドリップを眺めてた。すると…

「…何がだ?」
「ぇ?、うわぁっ!!」
 背後からの突然の声にビックリして振り返ると、いつの間にか俺の真後ろにセフィロスが立っていて2度ビックリした。だって真後ろも真後ろ、超至近距離。おかげで軽くシンクに腰打ったぜ。
「お、脅かすなよ!」
「俺は普通に歩いてきた。気付かないお前の方が謎だ。それよりも、何が『なんて』なんだ?」
 普通に歩いてきたって?ホントかよ。俺、休みだからってそこまでスイッチ切ってるつもりないぞ?
 けど、そんな俺の苦情には微塵も感心が無いのか、セフィロスは一歩こっちに近づいてくる。
「何が、って…?」
「今、お前が言った言葉だ。何を考えている」
 セフィロスの表情に笑顔はない。なんだろう、なんか思った以上にイライラしてるみたいな気がする。
 そしてまた一歩。俺はシンクとセフィロスの間に完全に挟まれてしまった。
「あー…、えと、独り言だしそんなそんな大した事は…」
 真っ直ぐなセフィロスの瞳が目の前に来て自然と俺の目が泳ぐ。さすがにこの距離は近い。
「今日のお前はいったい何なんだ、何がしたいんだ」
「ぇ…?」
 セフィロスのガッシリとした長い腕が俺を挟むようにしてシンクへと伸びた。俺の逃げ道を塞ぐように。なんなんだこの窮鼠感は。
「な、なんかイライラしてる…?」
「…かもな」
 ヤバイ。セフィロスの目がマジだ。でも何故だ?何にこんなにイラついてるんだ?




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