■ 願い事ひとつ 
02 

 



「最期は、セフィロスと共に逝けますように」

「……」

 そのザックスの願いにセフィロスは驚いたように翡翠の目を見開いた。

「生きるほうではなく、死ぬ方か?」
「そ。なんで驚いてんの? そんなに変?」
「いや、お前らしくない気がした」
「なんでよ。俺、どんな風に映ってんの?」

 セフィロスの驚いた表情を見てザックスはおかしそうにカラカラと笑う。
 代わりにセフィロスが難しい顔をした。

 セフィロスの知る限りザックスは誰よりも『生きる』ということに拘りをもつ。誰も死なせない、死ぬことなんて考えるな、それを言い続けて、己を削るような行動までしているのがザックスだ。
 当人は死を考えていないとまでは言わないが、それに願いと託すのはどこか違和感があった。
「なにか、あったのか?」
 ザックスが死を意識するほどの何かにみまわれたのかとセフィロスは心配をする。
 ジェネシスが謎の失踪をし、それを追ったアンジールが死んだ。ソルジャー達を統括していたラザードも消えた。
 かつては最強のソルジャーが集い、確たる戦力をもった神羅は崩壊しつつある。

 その瀬戸際に1stになったザックス。
 背負うものも踏みとどまる負担も大きい。


 そんなザックスを思い気を配るセフィロスに、ザックスは嬉しそうに口角をあげた。
「心配?」
 その笑顔にからかわれたのかと不満を表すようにセフィロスはそっぽを向く。だが、
「…当然だ」
 洩らした言葉はザックスの顔をより綻ばせた。

「からかってねーよ。本気でそう思ってんの」
 ポスンとセフィロスにもたれるとセフィロスの胴に腕を回し体を小さく折り曲げてしがみつく。
 キュッとしがみついた腕に力を込めてポツリと呟いた。
「本気で、アイシテルって言ってんの」
「……」
 その呟きにセフィロスは視線を戻すと、自分の傍らで丸くなるザックスの背を撫でる。
「一緒に死ぬことがか?」
「うん。そこしか自由は無ぇし、セフィロスと離れんのイヤだから」
「……」
「たとえそれが死であっても。わずか数秒の差であっても。残すのも残されるのも嫌だ…」


 残された2人きりの1st。
 崩壊しつつある神羅の中にあっても、神羅の道具であるソルジャーの、その任の重さは変わらない。むしろ人数が少なくなった分、残された者への重責はさらに増えた。
 トップからは1stを増やすように言われているが、2人はこれ以上の1stを作る気はない。
 大勢のソルジャー達が今まで抱えてきた闇、奪い奪われた希望、拭えなかった渇望。
 それら全ての責と負担を2人で負う。そう決めたのだ。


 代わりに失ったのは自由という大きな代償。
 2人に安らぐ時間はもうない。


「ザックス…その時は、俺がお前の最期をやる」
「……」
「だから、俺の最期もお前がくれ」
「……うん」

 セフィロスがザックスの体を引き寄せると、どちらからともなく自然に互いの唇が重なった。



 生きることは諦めない。
 死ぬことに逃げたりもしない。
 罪を重ねる覚悟もその贖罪を受ける覚悟もした道。
 そこに生きる事に後悔もしない。
 けれどできることなからば…

 願いごとはひとつだけ。
 誓うこともひとつだけ。

 共に逝きたい。

 ただ、そのひとつだけ。




 遠いミッドガルの光の円卓の中から、時間遅れの鐘の音がしていた。

 その願い受け止めたとばかりに、ひとつの鐘が小さく鳴っていた。







end.




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