■ 願い事ひとつ 01 |
もしも願いが叶うなら、願い事はただひとつだけ。 セフィロスと共に逝きたい。 そんな話をしたら、隣に座っていたセフィロスが珍しく目を見開いて俺を見た。 その表情を見れただけでも、言ったかいがあったと嬉しくなった。 【 願い事ひとつ 】 深夜0時のカウントダウン。 年の変わるその15分前のミッドガルは人々の喧騒と興奮に包まれ、今か今かと待ちわびるその瞬間を迎える熱気で沸き返っていた。 一年を区切りとするこの日を人々は本能的に節目と捕らえ、この時ばかりはと酒を酌み交わし、挨拶を交わす。 争いの火種を一時沈静化し、共にその時を迎えて、新たな一歩を刻む。 決して決まりではないはずのその慣わしを、人々は暗黙のうちに行い集う。そんな特別な一夜だった。 「今頃、兵隊さんたちは警備でおおわらわだろーなー」 そんな狂乱の時間を向かえようとするミッドガルの外。 丸い光の街を見下ろせる高台の崖の上に腰を下ろし、ザックスはのんきに肘を突いて揺らめく町の明かりに顔を綻ばせた。 「兵隊だけじゃない。ソルジャーも借り出されている」 その横ではセフィロスが足を組み、こちらは無表情のまま見慣れた街を見下ろしていた。 「部下が働いてんのに、リーダーがサボり?」 「お前もだろう」 「確かに」 クスクスとおかしそうにザックスが笑う。 長かったウータイとの戦争と未曾有のソルジャー大量失踪事件のせいで神羅の兵士とソルジャーは激減した。 そんな中で街あげての行事となれば、互いに休んでなどおられず総出で警備に回るしかない。 それはクラス1stのセフィロスとザックスをもってしてもまた例外ではなく、大きな事件が起きた場合に備えて待機する立場だ。 「だからこうして、携帯片手に遠くにまでは行ってないわけよ」 ザックスがポンポンと携帯の入ったポケットを叩く。 何かあればすぐに連絡が入ると共にタークスのヘリが迎えにくる手筈になっている。 それが無かったとしても、カウントダウンが終われば迎えが来る。 「真面目なサボリだな」 「お互いにね」 そしてまたその手筈はセフィロスもまた同じ。 2人はほんの数分前にタークスに頼み込み、先の条件を飲むことでこの場所まで送ってもらった身。 僅かな時間の、拘束された秘密の自由時間だった。 ただそれでもその時間を得たかったのは----- 「セフィロスとさ、年越えの鐘が聞きたかったんだ」 「ここで?」 「場所はどこだっていいよ。2人なら」 「そうだな。去年も一緒だった」 「…うん」 年を越える瞬間、神羅はこの時だけ教会の鐘を一斉に鳴らす。 信仰とは関係はなく、ただそれだけのための演出なのだがその鐘の音は人々の心に染み渡るには充分だった。 去年、ザックスはこの音をセフィロスと、そしてアンジールとジェネシスと聞いた。 あの鐘の音がなっている間に願い事を言えば叶うんだと、分かりやすい子供だましのまじないをジェネシスに吹き込まれ必死に祈ったのを覚えている。 その時に願ったのは『1stになりたい!英雄になりますよーに!』と必死に早口で唱えた。 まだ何も怖いものがなかった頃。ザックスには目指すものだけを見ていた。 「1stの夢は叶ったから、案外でたらめじゃ無ぇかもよ?あのおまじない」 「なら、今年もやってみるか?」 「うん。後悔の無ぇもんにしないとな」 1stにはなれた。 けれど、アンジールをジェネシスを失った。 2人が受けたその消失感は計り知れない。 「まさか本気でまじないを信じているのか?」 「んな事無ぇけど、でもさ…」 失うとは思っても見なかった存在が消えた。 もう二度と、そんな思いはしたくはない。 「でも、言葉に出しておいてもいいかなと思って。こんな時じゃなきゃ言えないかもしんないだろ?」 星明りの中、ザックスがどこが頼りなく笑う。 その笑顔にセフィロスは胸に引っかかるものを残したまま口を閉ざした。 「……」 全てを守り、全てを幸せにしようとするザックス。 矛盾の中でもそれに全力を賭して怯む事も臆することもしない。 セフィロスにはそれが、ザックスの命を自ら削っているようにも見える。 だが、セフィロスにはそれを伝える言葉が出てこない。 これ以上失いたくはないのはセフィロスも同じだというのに、上手く言葉で表現することができないのだ、セフィロスには。 「お、時間だ」 携帯で時間を確認したザックスが顔をあげ、それを合図にしたようにミッドガルから小さな鐘の音が鳴った。 そして手を合わせたザックスが願ったのは----- |
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