■ 銀色ピアス 
02 

 

「これ、あんたがつけ直してくれよ」
 そういうとザックスは左耳につけたピアスを外し、それをセフィロスへと差し出した。
「買ってもらうのも嬉しいけどさ、つけてもらうのもなかなかいいだろ? セフィロスがつけてくれたら俺、もう二度と外さないから」
「……」
 そうやって渡されたピアスに、セフィロスは意味ありげに口角をあげる。
「まるで貞操帯だな」
「そういう事言うなよ。まぁ、そう思ってくれてもいいけどさ」
「いいのか?」
「別に構わないよ、あんたなら」
 そう言って髪をかき上げ自分の左耳部位を差し出してくるザックスに、セフィロスの芯は微かに熱くなる。
 この男はいつもそうだ。自分の言っている言葉や仕草が、どれほど相手を煽っているのかをまるで分かっていない。躊躇もせずに急所を晒し、拘束されてもいいなどどほのめかしてくる。これほどの煽りがあるだろうか。
「……」
 セフィロスはからかった自分の言葉にひとつだけ小さく息を吐くと、手の中のピアスをその長い指に取った。
「初めて見る石だな」
 白銀色に輝くその表面には幾何学的な網目模様が施されており、こんな小さなものにどうやってそれを彫刻するのかと謎にすら思う。
 と同時に、セフィロスは初めて見るその不思議な石をどこかで知っているような、なんとも言えない不思議な感覚を感じた。
「隕石なんだってさ、それ」
「隕石?」
「ウィドマンシュ テッテン構造って言って、どんな形に研磨しても浮かび上がってくるんだって。すげーよな、自然の神秘。いや、宇宙の神秘か」
 だが、隕石に対し心当たりが全くないセフィロスは、その不思議な感覚に蓋をする。
 ザックスが今言っている事は、おそらく最初に言いかけていた事なのだろう。さっきは強制的に止めてしまったが、今度こそその話を聞いてやろうと、セフィロスは話に耳を傾けながら、そのピアスをザックスのピアスホールに挿しいれた。
 ザックスの柔らかな耳朶にピアスの軸がスッと入る。
「どこの隕石だ?」
「ノルズポル」
「アイシクルエリアの北の大空洞か」
「うん。2000年前に落ちたっていうあのでっかい隕石。永久凍土の中から見つかった一部らしい。だからすっげー貴重なもので、実は驚くほど高かったんだけど…」
 話し続けるザックスの耳朶を返し、裏からキャッチで止める。
「この銀色があんたみたいだと思ったら、どうしても欲しくなったんだ」
 セフィロスの手の中で、ザックスの耳に銀色の石が光る。これでもう、このピアスはザックスから二度と外れる事はない。セフィロスが繋いだ施錠をザックスはその身体に残し続けるのだ。
「それは、それだけ俺を欲しているという事か?」
 セフィロスの指先がザックスの耳裏を撫で顎の線を辿る。今度のからかいはほんの僅か、すでに覚えた熱がくすぶっている以上、本気の方が多い。
「そう思ってくれていいぜ。あんたなら」
 そうして薄く挑発的に笑ったザックスの肩を引き寄せると、セフィロスは腕の中に抱え込み唇を重ねる。
 先ほどまで話に夢中になっていたザックスの言葉が止まり、衣擦れの音と共に互いを求める腕が、背へと回っていった。






 今から約2000年前――
 ノルズポルの地に隕石が落ち、この星の厄災は始まった。
 その隕石と共に飛来したものが何であるかを、2人はまだ知らない。









end.



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