■ 銀色ピアス 01 |
「これ、いいな」 商品ケースの中に並ぶソレを覗き込み、ザックスは思わず呟いた。 「こちらのピアスですね。お出ししましょうか」 「うん、お願い」 店員がガラスケースの鍵を開け、ビロードのトレーの上に取りだしたソレを、ザックスは指先で摘むと目の高さまで上げる。 「うん。やっぱりいい」 その色と輝き、そして独特の模様から感じる不思議な感覚が気に入り、ザックスは表情を和らげた。値段は高いが、それ以上にどうしようもなく惹き付けられるものがある。 「な、これなに? シルバーとはちょっと違うよな」 「はい、お客様。それは…」 そして、店員の説明を聞いたザックスは購入を即決した。 「そんなものを持っていたか?」 その夜、買い物から帰ってきたザックスの顔を見るなり、セフィロスは首を傾げた。 「え? どれ?」 「ソレだ」 ザックスの質問に、セフィロスは自分の耳たぶをトントンと指先で叩く。その仕草からピアスの事だと分かると、ザックスは「ああ」と頷いた。 ザックスの左耳には、今日買ったばかりのピアスがつけてあった。あまりにも気に入ったために、購入した直後にすぐに付け替えたのだ。 「今日、買ったばかりなんだ。よく気がついたな。実はこれさ…」 だがザックスが機嫌よく話し始めようとした途端、セフィロスは面白く無さそうに口を紡ぐと、プイとそっぽを向き、さっさとリビングのソファに座ってしまった。 「セフィロス?」 そのまま返事もぜすに耳も傾けない。 「なに、 気に入らねーの?」 理由は分からないが、何かお気に召さない事があるらしい。ザックスはそれを察すると仕方無さそうに溜息をつき、セフィロスの隣に背もたれに肘を付く横向きの体制で座った。 二人で一緒に暮らすようになって1年。今では同じ1stとなり、公私共にザックスはセフィロスを見ている。そんなザックスから見ても、セフィロスの感情表現はいまだに乏しい。 そのセフィロスが明らかに拗ねたのだ。ここは放っておくわけにはいかない。 「なぁ、これ似合わない? あんたが気に入らないなら外すけど?」 「その必要はない。前の安物より似合っている」 見上げてくるザックスの表情を視界の端に捉えたまま、セフィロスは手近にあった雑誌を手に取るとペラペラとページを捲る。雑誌を読みたいわけではなく、単なる手持ち無沙汰だ。その証に、セフィロスの視線は全く雑誌の文字を追っていない。そんなセフィロスに、ザックスは小さく笑った。 「安物って言うなよ。確かに安物だけどさ、ソルジャーになった時の記念に買ったやつで、今までずっと愛用してたんだぜ?」 「知っている。だから言わなかった」 「あ?」 「新しく買い替えてもいいのなら、俺が買ってやったのに」 「……」 セフィロスの告白に、ザックスはきょとんとその藍色の目を見開いた。 つまり、こうだ。 今までザックスがしていたピアスは記念の品だからずっと変えないだろうと思い黙っていたが、本当は自分が新しいピアスを買ってやりたかった。そういう事なのだろうか、セフィロスは。 「…マジで?」 そんな風に想っていてくれていたのが信じられないと言わんばかりに、ザックスは目をパチクリとさせる。それを視界の隅で感じたセフィロスは、ますます口をへの字に曲げザックスを睨んだ。 「なんだ。俺が買うのでは不満か」 「そ、そんな事ないって! マジかよ。嬉しい! …ぁぁ失敗した。あんたに強請ればよかったぁ」 そして手をパタパタと振った後、ザックスはソファの背もたれに撃沈する。 ザックスももう1stだ。ちょっとくらい高価なものでも、即決で買えるくらいの余裕はある。このピアスを買ったことで困るような財布事情ではないのだ。だが、これはそんな問題ではない。 セフィロスが内心で想っていた事を、自分が知らぬ内に甘え実現する。その貴重なチャンスを逃してしまったのだ。それが悔やまれてならない。 失敗したー、失敗したー、プレゼントされたかったー。と繰り返しなからソファの上で身悶え、自分以上に悔やむザックスを見てセフィロスはやがて気を取り直すと、仕方なさそうに苦笑した。 「次回は言え」 「そうする。あ、でも1つ頼んでいい?」 「なんだ?」 |
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