■ 愛情ピラミッド 03 |
「美味しかった?ワイン」 「ああ、傑作だ」 「リンゴでワインを作るのって、難しいの?」 「数がいるからな。気まぐれで実るバノーラ・ホワイトには致命的だ」 「ふ~ん、そうなんだ…」 ジェネシスが愛する故郷の、大切な思い出のリンゴで作ったリンゴのワイン。 ジェネシスの両親が今年初めて完成したというそれはまさに希少の品だった。 「そんなに希少なら、俺がカブ飲みしちゃ悪いよな…」 その価値をやっと理解したようにザックスが呟く。 「どうした?やけに憔悴だな」 「アンタがくれなかった理由作ってんの!好きじゃないからくれなかったとかいうの嫌だからっ!」 拗ねてプイッと横を向く。だが、ジェネシスに包まれたコートの中で他所を向いてもジェネシスには頭を振っているようにしか見えず、ジェネシスは小さく口角をあげた。 「そんなに飲みたいのか?」 「いいよ、もう!何度も言うなよ、どうせくれないんだろ?!」 ぷんぷんと怒るザックスをジェネシスは可笑しそうに笑う。 「ああ。やらん」 「ムカーッ!!」 あからさまに怒るザックスがおもしろくてジェネシスはコートを包む腕に力こ込めた。 「アンタ性格悪すぎだからな!絶対に報復してやる!やり返してやる!」 「やってみろ仔犬。倍にして返してやる」 「ムキーッ!」 コートから出そうとしないジェネシスと、喚くだけで出ようとしないザックス。 双方笑顔というわけではないが、こんなジャレ合いをするのはこの2人が2人でいる時だけだ。 「ワンワン言って怒ってみろ、仔犬」 「このやろっ、神羅の狂犬なめんなよっ!」 ザックスがその場でくるりと身を回転し、ジェネシスの胸元に大口をあけた。 犬らしく噛み付いてやろうという魂胆だが、ジェネシスはさらに抱き寄せるとそのままザックスの顔面を自分の胸に押し当てる。 「んがぁ!」 「どうした?噛むんじゃないのか?神羅のダメ犬」 「いぎっ!いひでひな…っ!」 口と一緒に鼻も塞がれ、息が出来ずにもがくザックスを抱きしめながらジェネシスは楽しそうに笑った。 誰もが知っているのはザックスの笑顔。 泣いたり悔しんだり怒ったりするザックスをこれほど見られるのはジェネシスの特権だ。 それはジェネシスの自慢でもある事をザックスだけが知らない。 「ちなみに、バノーラホワイトのワインはそれほど希少じゃない」 「え?」 やっと息が出来るほどに解放され、鼻の頭を赤くしたザックスは驚いてジェネシスを見上げた。 そこには案の定、ザックスをからかって遊ぶジェネシスの意地の悪い笑みがある。 「リンゴ果汁を保存する技術は俺が開発済みだ。それを使えば実りの不特定さもさほど問題にはならないからな。送られてきたワインの数もまだある」 「じゃ、じゃぁ、なんでくれないんだ…?」 「あれはアンジールとセフィロスの分だからだ」 「何ぃー?!」 まさに衝撃。ザックスはジェネシスの体に抱きついたまま身を乗り出した。 「それだけ!?」 「母からの手紙が付いていた。『アンジールくんとセフィロスくんにもあげてね』だそうだ。アイツらは酒豪だからな、何本あっても足りないだろう」 「マジで?!ガブ飲み有りなわけ?!」 それならば自分は何でもらえないんだと、ザックスは目を見開いた。その表情をおかしそうにジェネシスは覗きこむ。 「ああ、そういえば」 「何?!」 「『仔犬ちゃんにもね』とも書いてあったな」 「俺の分もあるんじゃないかーーーー!!」 つまりは、これはジェネシスのただの意地悪だとやっと気が付いたザックスはジェネシスの中から逃れようと必死に身を身を捩った。 「なんだよ!悩んで損した!今飲む!」 「駄目だ。やらんと言っただろう」 「イーヤ-ダー!今飲む!絶対に飲む!」 愛情の順番でも量の希少さでもなく、ただの意地悪遊び。 そんなジェネシスの娯楽だと分かったら、もうザックスに迷うものはない。 身を捩り腕でもがき、懸命にジェネシスから逃げワインに向かおうと格闘する。 「離せ!ジェエシス!」 「断る」 「なら、このまま押し切る!」 ジェネシスの腕から逃げることが叶わないと悟るやいなや、今度はそのまま部屋の中に入ろうとザックスは足を踏ん張りジェネシスを押し込もうとする。 が、ジェネシスはそんなザックスごと柵に詰め寄ると、柵と自分の間に挟んで閉じ込めた。 「どうした?進んでないぞ?」 「くっそぉー!はなせーー!」 「イ・ヤ・だ」 幸せそうに微笑むジェネシスの笑顔を、抱きしめられているザックスだけが見れないのはいつものこと。 「ジェネシスのバカ!ドS!ヘンタイ!」 「なんどでも言え。離してなどやらん」 ジェネシスの中にある愛情ピラミッド。 そのピラミッドを自由に昇り降りして遊ぶ事を許されている仔犬がただ1人だけいる事を、ザックスだけが気がつかないのもまた、いつものこと。 end. |
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