■ 林檎王子と仔犬のハロウィン 04 王子の事情 |
「ザックスは眠ったか?」 「ああ」 ひたすらキッチンで身を隠し続け、やっと出られたことにアンジールは溜め息を付いた。 「全く、お前達はここをどこだと思っているんだ」 「お前の執務室だろう?だからあれで止めてやったんだ。ありがたく思え」 「そうだな、助かる。…とでも言うと思うのかっ」 ゴツンとジェネシスに軽い拳骨を食らわし、再び元の席につく。叩かれた頭をくすぐったそうに掻くジェネシスの膝では、幸せそうにスヤスヤと寝息を立てるザックスの寝顔があった。 そんなザックスを撫でようとアンジールが手を伸ばすと、今度はその手をジェネシスがピシャリと叩く。 「勝手に触るな」 「なら少しは素直に大切にしたらどうだ。わざとヤキモチを妬かせてまで気を惹くのはどうかと思うぞ」 叩かれた手を振りながら苦虫を噛んだような表情のアンジールに、ジェネシスはイタズラがバレた子供のように楽しげな笑いを零した。 「バレてたか」 「当たり前だ。全くお前のその天邪鬼さは、昔から少しも変わっていない」 やれやれと、困った親友の悪癖に深く溜め息をついてアンジールはソファに背を沈めた。 嫌いなものには無関心だが、好きなものに対しては何かとちょっかいを出し、いつの間にか向こうから自分に関わらせるように仕向けるジェネシスの悪癖。 それがこの男の愛情表現だと理解できる者は少ない。 「いつかザックスに嫌われても知らんぞ」 癖の強い友を心配し少しは釘をさせればと撃った一打だった。 が、当のジェネシスは全く堪えなかったように自信ありげに笑うと、ザックスを抱き上げてキッパリと言い切った。 「俺が惚れている限り、そんな事にはならないさ」 「……、全く、お前は…」 開いた口が塞がらず、アンジールは参ったとばかりに額に手を当てる。 あながちその通りになりそうな分、尚のこと性質が悪いのだ。ただそれでも、この天邪鬼に『惚れている』と言わさせた進歩は大きな奇跡なのかもしれない。 ザックスを横抱きに抱きかかえ、ジェネシスがソファを立つ。 「行くのか?」 「ああ、かけたスリプルも強力なものじゃないからな」 「まだ勤務時間だという事を忘れるなよ」 「……」 その一言に饒舌なジェネシスの口が一瞬止まる。どうやらこの釘は無事に刺せたようだと、アンジールはやっと笑った。 「ザックスが起きたら、ハロウィンの話をしてやってくれ」 「ハロウィン?あの下らんカボチャ祭りか」 「ああ。お前と楽しみたがっていたからな」 「フン。カボチャの何がいいんだ」 案の定、ジェネシスはつまらなそうにそっぽを向くが、それに見慣れているアンジールは構わずに会話を続ける。 「俺達が育ったバノーラではカボチャではなくリンゴだったと教えてやれ。最もいつ実るか分からん特性のおかげで、毎回中止になってばかりの祭りだったが」 「…バノーラ・ホワイトの崇高な実りは、人間のためにあるものじゃないという事だろう」 「ミッドガルでは昔からカボチャだそうだ」 「?」 話の内容がポンポンと飛ぶような言い回しに、アンジールの意図する事が分からずジェネシスが眉をひそめた。 「アンジール。何がいいたい」 「正直に『カボチャではなくリンゴでやりたい』と告白したらどうだ?」 「…!」 図星を突かれたせいで顔を赤めながら歪めて苦虫を噛むジェネシスと、それを見てほくそ笑むアンジール。先ほどとは形勢が逆転していた。 「ザックスなら喜んで付き合ってくれると思うぞ?」 「うるさい。黙れ!そんなマネをするくらいなら、死んだ方がマシだ!」 今にも卒倒しかねない真っ赤な顔でジェネシスが吼える。 「何故そんなにバレるのが嫌なんだ?本当は故郷と思い出を大切にする優しい人間のくせに」 「殺すぞっ!相棒!!」 今にもメガフレアを放ちそうなオーラを放出させ、ジェネシスが怒りだす。 もしもここに他の人間がいたら全員が一目散に逃げ出すであろうほどの殺気だったが、アンジールはその様子を懐かしそうに見た。 昔からそうだ。ジェネシスは必死に隠している『いい子の面』を正面から突付かれると真っ赤になって怒り出す。そしてそのままからかい続けると、しまいには泣きながら自分の部屋に閉じこもってしまうのだ。そんなジェネシスを、アンジールは何時間もかけて宥めたものだった。 「分かった。分かった。本当に、変わってないなお前は」 「いいか!仔犬に余計な事を言ったら本当に殺すからなっ!!」 両手をあげて降参するアンジールに、ジェネシスはドカドカと足音を立てて、プリプリと怒りながら部屋を出て行った。 「やれやれ…」 2人が去り静かになった執務室で、アンジールは溜め息を付く。 最初から騒がしいのがザックスなら、一皮向いたその中が騒がしいのがジェネシスと言った所か。いずれにせよ、互いが互いの元気の源であるのは間違いは無いらしい。 「そう考えると、なかなか似合いだな」 親友の幸福を祝い、アンジールはすっかり冷え切った紅茶を飲んだ。 バノーラ・ホワイトで祝うハロウィン。 ザックスがそれに気がつくのが先か、ジェネシスがザックスに悟らせられるのが先か。 「いつ出来るか楽しみだな」 そしてその時には、いろいろと工夫してきたバノーラ・ホワイトの料理を沢山作ってやろうと思うアンジールだった。 end. |
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