■ 林檎王子と仔犬のハロウィン 01 かぼちゃ嫌い |
「あ、いたいた。おーい、ジェネシスー、今年のハロウィンさー」 「黙れ!仔犬!!」 「ぎゃーーーーーーーー!!」 赤いコートが振り返るよりも早く飛んできた3連ファイガに、俺は本気で死にそうになった。 【林檎王子と仔犬のハロウィン】 「ははは、ジェネシスの魔法攻撃を寄せるとは成長したな、ザックス」 「笑い事じゃないぞ、アンジール!俺、死ぬとこだったんだぞ!」 ジェネシスの3連ファイガをギリギリでかわし「さすが俺!」と自画自賛をしたのもつかの間、引き続き魔力を込め出したジェネシスに、とにかく逃げの一手で駆け込んだのはアンジールの執務室だった。 「俺は何度も食らっているが、死んだ事はないぞ?」 「そんなんアンジールだけだから!俺は食らったら最期!ケアルじゃ治んねーよ!」 「ふむ。お前のケアルはまだ訓練不足か」 「いや、そうだけど…そうじゃねーし…」 けど、俺の話に真面目に返すアンジールのピントはどこかおかしい。 普段は誰もが認めるほどの常識人なのに、ジェネシスが関わるといつもこうだ。さすがは同郷のよしみというか、幼馴染みというか。 「どうしてジェネシスの突然の暴挙は攻めないんだよ」 「それがジェネシスだからな。お前もよく知っているだろう?」 「んー、そうだけどさぁ」 納得がいくようないかないような答えに、執務室のソファに胡坐をかきクッションを抱きかかえた。 『ジェネシスだから』と言ってしまえばそれまでだ。理屈なんかじゃなく、その一言で誰もが頷く。 それがまかり通るほどの存在だってのも分かるけど、でも、それってどうなのよ。 「そのジェネシスに目を付けられてる俺って、可哀相」 「そうなのか?」 「そうだよ。毎日顔を合わせれば苛められ、けなされてさ。大変な事ばっかだ」 そう本気で思っているのに、アンジールはそんな俺を見てクスクスと笑う。 「毎日楽しそうだが?」 「………」 …んなわけないだろ、ふん。 カタカタカタとアンジールがキーボードを叩く音がする。 そうや俺、仕事中でもお構いなしに飛び込んで来たんだっけ…。それでも怒らずに話を聞いてくれるアンジールって偉大だな。 もしこれがジェネシスならきっと俺は首根っこ掴まれて、さっさと… 「ザックス?」 「ん、ん?」 「急に黙ってどうした?拗ねてるのか?」 「い、いや、そんな事ねぇよ」 ヤバイ。今ちょっとトリップしそうになった。 でも、アンジールには俺が元気を無くしているように見えたのか、手を止めて顔を上げてくれた。 「今回の件なら、おそらく原因はハロウィンだ」 「ハロウィン?」 「ああ。誘おうとしたんだろ?」 「そうだけど…それがどうしたんだよ」 「ジェネシスはハロウィンが嫌いだ。覚えておくといい」 「え?嫌いなの?!なんで?」 「まぁ、昔な…」 初耳な話に慌てて顔を上げると、どこか懐かしげにアンジールの顔が綻ぶのが見えた。 「何?何?昔の話?」 期待に胸を弾ませて見あげていると、アンジールは立ち上がり俺の頭をクシャリと撫でる。 「昔、バノーラ村でもハロウィンをやろうとした事が何度かあったんだ」 「アンジールとジェネシスが子供の頃の話?」 でも足は止めずに、そのままキッチンへと向かって行く。 「けれどその度に出来なくなり、俺達は悔しい思いをするだけだった」 「え?え?ちょっと、アンジール!」 「後は自分で解いてみろ。それより暖かいのでいいか?」 「えー、最後まで教えてよ! あ、冷たいの!」 「ああ、分かった」 片手を上げて後ろ手に返事をするとアンジールはそのままキッチンに消えた。 「も~!言うなら全部言えよ~!気になるだろっ」 残された俺はソファに座り直し、再びクッションに顔を押し付けて考え込む。 ええと、アンジールは何て言ったっけ。 昔バノーラでもハロウィンをやろうとしたけど出来なくて、だからジェネシスはハロウィンが嫌いになった…? 「それで嫌いになるなんて、よっぽど悔しかったのか?」 つか、村の祭りがそうそう出来なくなるなんて可笑しいよな。何でだ? 実は村中が南瓜アレルギー?いやいや、前にアンジールは作ったカボチャの煮物をジェネシスは美味そうに食ってた。 まさか本物のお化けが出た?面白そうだけど非科学的すぎだな。 ハロウィンの日に何か悲しい出来事が起こった?それはありえそうだけど、さっきのアンジールの表情からは悪い話は考えにくい。 「んー、いったいなんだろう。そういや俺、ジェネシスが子供時代の事、何も聞いてないんだよな…」 アンジールが幼馴染だから、村の名前は知ってる。兄弟はいなくて、母親と父親との3人家族だってのも聞いた。 でも、何が好きだったとか、どんな遊びをしてたとか。そんな他愛の無い話を直接ジェネシスから聞いた事は無い。 「……」 なんで、教えてくれないんだろう。つか、 「なんで、知らないんだ…俺?」 知り合ってから2年、付き合い出してからは1年はたつ。今じゃ毎日のように顔をつき合わせてんのに、なのに全く知らないってのは、 「なんか、嫌だだなそういうの」 そんな風に1人で考え込んでいたせいか、部屋に人が入ってきた事も、その人物が真後ろに立ったの事にも俺は全く気がつかなかった。 |
◇ next→ 02 |