■ urge 2 01 |
アンジールにとってザックスは、ソルジャーという特殊部隊における後輩の1人だ。 歳が若いせいか礼儀知らずな所はあるが、その分元気でとびきり明るく、とにかく人懐いまるで仔犬のような性格。ザックスと聞いて思い出すのは、いつも楽しそうにしている満面の笑顔しかない。 そのザックスを1st候補生に選出するにあたり、行く末を危惧したアンジールはバディを組んだ。 厳しい試練に彼が挫けないように、辛い試練に彼の心が壊れないように、選出に携わってしまった自分が全力でサポートしようとバディを組んだ。 が、その同意を得ようと招待した夕飯の席で、思いつめた表情のザックスが言い出した事は… 『…アンジール…。…あの、さ…』 ザックスが1人佇むシュミレーションルームに、バトルプログラムが開始される電子アナウンスが流れる。 『 Activating combat mode 』 途端に部屋はコンクリートで仕切られた簡素な空間に変わり、ザックスに向けてライフルを構えた複数の神羅兵士が現れた。 「よし、来い!」 気合を入れるザックスとは裏腹に、ヘルメットを深く被った兵士は無表情のままザックスに向けて発砲する。ザックスはその銃弾から身をかわすと、速やかに兵士に近づき剣を振った。 『うあああ!』 切られた兵士から断末魔の叫び声が上がる。が、その兵士が地に倒れると同時に姿はかき消されるように消え、それと入れ替わるように別の場所からまた新しい兵士が湧き出す。ザックスは臆する事なく地を踏み切ると、それに向かって走りだした。 「やああ!」 訓練プログラム【神羅軍応用訓練組手】。 この、次々と現れる神羅軍の兵士を倒していくミッションはアンジールがザックスに課した訓練のひとつだ。 始めは指定の人数をクリアする事から。次は時間制限、さらに使用武器の制限など、次々に条件が追加されて行く。さらにそれらがクリアされると今度は組手の人数を増やし、再び各種制限の追加が繰り返されるのだ。 ソルジャーの持久力や精神力など、基礎となるものを養うには確実に成果が得られる訓練だった。 「…これが、最後…ッ!」 切って切って切り続け、ザックスはやっと最後の1人を倒す。 『 Conflict resolved 』 電子アナウンスが終了を告げ、周囲の景色は電子のピースが剥がれ落ちて行くように崩れて消えた。 再びシュミレーションルームへと戻ると「フゥ…」と一息をつき、ザックスはオペレーションルームにいるカンセルに声をかける。 「今のどうだったー?」 「00:20:00:23。残念、クリアならず」 楽しそうに帰ってきた声は、残念と言いながらも面白がっている要素のほうが大きい。 「うえ~。マジィ~!たった23秒じゃん、オマケになんない?」 「なんねーな。1秒だろうが1時間だろうが落第は同じだ。いーんだぜ?ミッションから帰ってきたサー・アンジールに「ザックスはたがか23秒だとナメやがりました」と報告しても?」 「うわわ!やめて、お願い!」 カンセルの脅しにザックスは必死に両手を合わせて頭を下げた。 もしもそんな事を報告されたら真面目なアンジールのこと「戦場でも同じ事が言えるのか!」と、長~いお説教が始まるに違いない。それはどんな美味しいオマケよりも遥かに怖いのだ。 そんなザックスの分かりやすい反応にカンセルは喉を鳴らしながら笑い、再び同じミッションプログラムを用意した。 「なら、がんばれ。サーに良い成績を報告したいんだろ?もう1回行くぞ」 「うん、今度こそ褒めてもらうんだ」 子供じみたガッツポーズをするザックスにクスクスと笑いながら、再びプログラムを起動する。 「褒めてもらいたいからやるのかよ」 「うん。だって俺、アンジールに告ったからさ。良いとこ見せて好きになってもらうんだ」 「ははは、そーか、そーか。…って、…え?」 2度聞きしたカンセルの声を電子アナウンスが掻き消す。 『 Activating combat mode 』 「…告った…?」 オペーレッションルームで目を点にしたカンセルの後ろには、カンセル以上に目をひん剥いた【初の1st候補の訓練風景】を見物に来ていた多数のソルジャー達がいた。 |
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