■ urge 03 |
「随分と口説かれていたね」 「よしてくれ」 「2ndが1stに『頼ってくれ』とは前代未聞だ」 ブリーフィングルームの席に座ったままラザードはおかしそうにクスクスと笑った。 「なかなか見応えのあるテストだった。…それで?まずは君の選考結果を聞こうか」 トレーニングルームでの一部始終を見ていた上でそんな質問をする。アンジールの内心を知っての上だとすれば、ラザードもそこそこ人が悪い。 「…該当者無し…。と言って納得するか?」 「どうせ無理だろうと、言いたげだね。君自身がそう確信していることを、私はどう納得したらいいんだい?」 やはり無理か…、とアンジールはため息をついた。 アンジールが思うように、ラザードもまた思い浮かべている人物はただ一人だろう。 どんなに追い込まれても歯を食いしばり、期待以上に成長する者は周囲と明らかに違う。今、それに該当する者はザックスしかいない。だが… 「…ザックスはまだ子供だ」 「そうだね。そしてそれは育成を目的とした場合、利点となる。違うかい?」 「……」 反対意見を出したつもりがあげあしを取られた形となり、アンジールは苦渋に眉を潜めた。 そんなアンジールにラザードは小さく息を吐くと、諭すようにゆっくりと話を始める。 「アンジール…君の事だ、このプロジェクトが気が進まないものであろう事は承知している。君は優しいからね、自分と同じ目に合わせたくはないんだろう。だが、私は他のソルジャー達と同様に君達も守らなけばならない。1stはもっと必要なんだ。君の僅かな変化を感じとりあれだけ伸びるザックスなら、君が大切にしているものも受け継げる1stになると思う。その希望があるんだ。どうか分かって欲しい」 アンジールは深いため息をつき、頭を振った。 自分が何と言おうとラザードは既に決心をしている。もはや選考はされたのだ。 抵抗は諦めるしかなかった。 「ひとつだけ…、条件を出していいか?」 そして諦めと引き換えに、アンジールは腹をくくった。 「何だい?」 「ザックスを俺のバディにしてくれ。1stとなる育成は俺が行う」 それはアンジールの覚悟だった。 過酷な環境に置く選考をしてしまった代わりに、それを全面的にサポートする。真面目で心優しいアンジールならではの決断だった。 「君らしいね」 そんなアンジールにラザードは眼鏡の奥で静かに目を細める。 負担を増やす事は大きな心配だが、これこそがアンジールの強みでもあるのだ。厄介な芽でも積むわけにはいかない。 「構わないよ。だが、バディを組むとなるとザックスの意思も尊重しなければならない。彼が拒否した時はどうする?」 「え?」 改めて言われた仮定にその可能性がある事を初めて気がつき、アンジールは顔をあげた。 そう言われれば確かにそうだ。だが思い出すのはいつも嬉しそうに懐いてくるザックスばかりで、とてもではないが拒否をされる図は思い浮かばない。 「考えられん…」 「本当に?君の自惚れではなく?」 「う…」 重ねて念を押されるとさすがのアンジールも不安になってきたのか頭を捻る。 多くの兵がそうであるように、ザックスもまた英雄に憧れてミッドガルに来た1人だ。バディが組めるなら英雄がいいと言い出してもおかしくはない。何故か釈然とはしないが…。 その釈然としない理由が分からないまま渋い表情を浮かべて悩むアンジールに、ラザードは再びクスクスと笑った。 「心配ならザックスに聞いてみるといい。なんなら今度は君が口説いてみたらどうだい?」 「口説く?俺が?」 「さっきは君が口説かれてたじゃないか」 「からかうな、ラザード」 再びトレーニングルームでの話を持ち出されアンジールは眉間に皺を寄せた。 「さて…」 一連の話が終わり、ブリーフィンTグルームを後にしたアンジールは執務室へと向かう。その道すがらアンジールは色々と思案していた。 ザックスが特定強化ソルジャーに指定されるのは時間の問題だ。そうなった時、バディの条件は受け入れてもらえるだろうか。 何かと固い自分よりも憧れているセフィロスの方がいいと言われるかもしれない。もしくはバディ自体が煩わしいと言われるかもしれない。たとえそうなったとしても彼が無事に育つのなら構わないのだが、それはあまりに心配だ。 考えれば考えるほど頭は空回りする。 「…一度、話してみるか…」 ラザードの言うことを間に受けたわけではないが、一度聞いてみる必要はありそうだった。その話の切り出しにはきっかけも必要だろう。 「飯にでも誘うか」 美味い飯ならば自分も得意な上、ザックスも好物だ。食い物で釣るようで気は引けるが、自分の得意なものといえばそんな事しかない。 「確か肉が好きだと言っていたな」 何か作れるだろうかとアンジールは思案しながら、携帯のフィリップを開けザックスのナンバーを押す。 もしザックスが喜んで食べてくれたなら、それをきっかけに話を始めよう。そう決めながらコール音に耳を傾けた。 「もしもし、ザックスか?」 ──おいしいと、言わせたい── end. |
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