■ urge 
01 

 


 ソルジャー専用のトレーニング・ルームにアンジールの檄が飛ぶ。
「立て!まだ終わっていない!倒れるな!」
 言葉の鞭と共に豪腕の拳から繰り出される青い炎に、床に膝をついていた2ndソルジャーは成すすべもなく吹き飛ばされた。
「う、あああ…!」
 掠れたような悲鳴をあげながら壁に叩きつけられ、やがてボロ人形のようにズルリと床へと転げ落ちる。
 失神による戦闘不能。
 それを察したアンジールは小さくため息をつくと、片手を上げ救護員を呼んだ。
「全身打撲に脳震盪、それに右肩の脱臼と露骨が折れているはずだ。頼む」
「Yes,sir」
 アンジールの指示に従い救護員達によって意識を失なったソルジャーが運ばれていく。その様子を見ていた他の2ndソルジャー達からは、どよめいたざわめきが起こっていた。
「すげぇ…さすが鬼教官」
「これで8人目だろ?今日のアンジールさん、一段と厳しくないか?」
「やべぇよ…俺行きたくねぇ…」
 神羅の中で最も厳しい教官は、ソルジャークラス1stのアンジールだった。
 普段は穏やかで面倒見の良い男だが、訓練となると鬼に豹変する。特にマンツーマンで行われる実技訓練は『実戦よりも過酷』と言われるほど容赦がなく、歴戦練磨であるはずのクラス2ndでさえ怖れるほどだった。
「次!!」
 再び表情が引き締まったアンジールの檄が飛び、トレーニングルームの隅に集まった2nd達は恐れて身をすくませる。その中から上がる手はない。
「どうした!お前達はそれでもソルジャーか!」
 続けざまに入れられる喝にソルジャー達は益々怯む。そんな空気に痺れを切らしたのか、群れの最奥から1本の腕が真っ直ぐにあがった。
「はい!俺!俺やりたい!」
 ザワめいた中から顔を出したのは、まだ15歳の2ndソルジャー、ザックスだった。2ndとはいえまだ3rdから昇格したばかりで、2ndの中では誰よりも下っ端だ。
「ザックスか。いいだろう、来い」
「よっしゃあぁ!」
 嬉しそうに瞳を輝かせ、怖いもの知らずな真っ直ぐな眼差しで剣を構える。明るく人懐こい性格のザックスは、アンジールが可愛がっている後輩の1人だった。
「返事はYes,sirだ!来い!」
「Yes,sir!やああああ!」
 気合いを込めて振り下ろされた剣をアンジールは片手で軽くはじく。と、左に重心を取りまだ細いザックスの腹を右の踵で思い切り蹴り飛ばした。
「くっ…!」
 激しい激突音をあげ、小さなザックスの身体が壁に叩きつけられる。が、そのまま跳ね返る反動を利用して回転すると即座に立ち上がり、再びアンジールに立ち向かった。
「やあああ!」
 そのまだ青くかむしゃらな闘志を受け止めながら、アンジールはラザードから言われた言葉を思い出していた。




『今日の実技訓練で、1st候補となるソルジャーを選出して欲しい』

 それは、ラザードから突然下された命令だった。
 世界で最も強い特殊部隊であるソルジャーの頂点であるクラス1st。
 英雄セフィロスを筆頭としたそのクラスには、現在ほんの一握りの人間しかいない。それほどに過酷で厳しい訓練と天性の才能を必要とするクラスがゆえの結果だ。
 が、絶対的に人数が足りない。
 少数ゆえにその負担は日増しに大きくなり、比例して危険性も増していく。ソルジャー部門の統括であるラザードにとって、それは頭の痛い問題だった。
 そこで立案されたのが、1st候補となるソルジャーを選出し特別強化訓練を行う育成プロジェクトだった。
 才能、素質、体力、精神力、その全てを考慮し選出した人材に通常以上の訓練を行い徹底的な強化を施す。効率性を重視した計画だ。
 だが、アンジールはそのプロジェクト自体に苦渋の表情を浮かべた。それはより過酷な環境に追い込む人選でもあったからだ。
 自分たちと同じ思いを誰かにさせる。それは根の優しいアンジールにはどうしても頷けないものだった。
《現時点において該当者無し》
 適度に試した後にそうラザードに報告をし、このプロジェクトを阻止しよう。それがアンジールが即座に決めた腹の内だった。
 1stである自分たちの負担は増えるが、誰かを巻き込むよりはいい。
 そう決心して望んだのが今日の実技訓練だったのである。

 案の定、普段以上に厳しいアンジールの訓練に、全てのソルジャーが尻込みをした。
 この程度の事で尻込みをするようでは1stの適正があるとはいえない。ラザードもこの様子はリアルタイムで見ている、自分の報告にも頷くだろう。
 アンジールはこの2nd達の実力を心のどこかで寂しく思いながらも、プロジェクトを回避出来ることに安堵をしていた。
 …安堵が出来るはずだった、このザックスと手合わせをする前までは。





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