■ 成長の芽 
02 

 

 コツ。コツ。コツ。
 右へゆらゆら。

 コツ。コツ。コツ。
 左へゆらゆら。

 アンジールは朝の恒例、植物の世話に忙しい。
 でも、…あれ…?
 なんでだろう…アンジールの歩き方がいつもより少し遅い気がする。
 俺のせいかな…。

「…アンジール…俺、重い?」
「いや?何故だ?」
「歩くの遅いな、って…」
「大切なものを背負っているからな。それに…」

 右へゆらゆら。

 左へゆらゆら。

「俺もこうしていると気持ちいいからじゃないか?」
「……」

 アンジールの言葉に俺の顔が熱くなった。

「…アンジール…」
「ん?」
「『ただいま』」
「おかえり。お前にはキツいミッションだったろうに、よく頑張ったな」

 いいそびれていた言葉を突然言ってもちゃんと分かってくれる。その嬉しさにちょっぴり泣きそうになった。
 返事の代わりに、アンジールにギュッとしがみつく。


 優しい。
 アンジールは優しくて強い。


 早く。

 早く、アンジールの足元に追いつきたい。
 早く、アンジールに同行できるように強くなりたい。
 だから、ランクが上のミッションをクリアしたいんだ。
 動機は不純かもしれないけど、その目標があるからどんなにツラくても頑張れる。

 結果はなかなかついてこないけど、でも、早く。

 もっと早く。
 もっと早く。

 もっと早く。


「…新芽がな、ザックス」
「…え?」
「新芽が出たんだ。ほら」

 アンジールにそう声を掛けられて指差された先を見ると、そこには丸い緑の葉の間から小さな黄緑色の葉がちょこんと顔を出していた。

「新芽が出ればそれは必ず育つ。俺は人も同じだと思う」
「…人も?」
「ああ」
「俺も?」
「そうだ」
「俺にも新芽あるかな…?」
「お前の場合は新芽だらけだな」
「えぇ~~」

 そう言ってアンジールは喉を鳴らして笑った。
 どういう意味だよ、新芽だらけって…

「まぁ、そう怒るな。お前にはそれだけ可能性があるという事だ」
 ムクれる俺の頭を、アンジールは笑いながら後ろ手でポンポンする。
 まぁ、アンジールは励ましてくれてるんだって事は分かるから、ホントは俺もそんなに嫌な気分じゃないけどね。
 でも、新芽だらけかぁ…。
 それって、まだまだって事だよなァ。

 
 
 アンジールの背中でションボリしてたら、いつの間にかアンジールは玄関に向かっていた。
 あ、もう出る時間なんだ…。
「じゃあな、ザックス。行ってくる」
 そうして下ろされると、アンジールは俺の代わりにバスターソードを背負った。
 あーあ…
 さっきまで俺の場所だったのに…。
 
「行ってらっしゃい」
「ああ。ちゃんと寝ておけ?食事は用意しておいたから、起きたら食べろ」
「うん…。ちゃんと俺の新芽を育てるよ」
「ははは、そうだな」
 緑に例えて言ってみたら、アンジールが笑ってくれた。
 良かった。これが見れただけでも満足。

「ザックス」
「ん?」
「今朝はお前の寝顔が見れただけでも良しとしていたんだが、それ以上の生気を貰った。起きて来てくれてありがとう」
 そう言って、アンジールは俺を引き寄せると軽く口付けた。
 俺の顔がまたボッと熱くなる。
「じゃ、行ってくる」
「…行って…らっしゃぃ…」

 パタンと閉じられてくドアにそう返すのが精一杯で、中途半端にあがったままの手を自分の唇に当てた。

 …起きてきて…正解…だったかも

 …なんちゃって

「てへ」

 デレデレに緩んだ顔もそのままに、残った熱を抱えたままベッドの中へダイブする。
 今はしっかり寝て、そして起きたらアンジールのごはんを食べよう。
 しっかり育ってくれよ、俺の新芽。
 そしていつか、アンジール並にデッカイ大樹になるんだ。


 待ってろよ、アンジール!


 そして身体の疲れよりも心の暖かさに包まれたまま、俺は心地よい眠りの中へ落ちていった。

 





end.





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