■ 成長の芽 
01 

 

 毎朝、アンジールは必ず家中にある沢山の植物の様子を見る。
 葉っぱをひっくりかえしてみたり、土に触ってみたり。
「毎日見てもそんな変わんないんじゃないの?」って言っても、「いいや。ちゃんと成長してるぞ」って返事が返ってくるんだ。
 でも、俺が見ても何も変わってようには見えない。
 アンジールの目には、いったいどんな風にものが見えているんだろう…。





【成長の芽】






「アンジィー…ル……、おはよ……」
「どうした?さっき帰ってきたばかりだろう?まだ寝てろ」
「…ぅん…、でもアンジールは仕事だから…」
 『行ってらっしゃい』を言いたいんだ…と、言う前に頭がカクンってなった。

 …眠い。

 正直に言うよ、まだ眠い。
 瞼も開かないし、右も左もよく分からないくらい眠い。
 そりゃそうだ。
 俺がミッションをこなして帰ってきたのは、夜明けが始まった頃だった。まだ数時間もたってない。
 行ってきたのは初めての極寒地での単独ミッションで、初めての3日間の不眠不休。
 正直な所、ランクも上でキツかったんだ。すんごい寒かったし、1人だったから緊張もハンパなかった。
 それでも少しでも早くランクアップしたくて行ったのは、譲れない目標のため。
 その根性もあってなんとかミッションはクリアできたけど…
 けど、その代償は予想以上に俺には負担で、鉛のように重くて動かない瞼と身体は思うように動かず、なんとか引き摺り玄関を開けたまでは覚えてるけど、そこから先の記憶がない。
 プッツリと無い…。
 たぶん、瞬時に寝たんだと思う。
 にも関わらず、気がついたらパジャマに着替えてベットにいたという事は、それをアンジールがやってくれたというワケで…。
 ああ…また世話かけちゃったんだなぁ、と思った。いつもの事だけど…。
 でも俺、ホントはもっとちゃんとして帰って来た姿を見せたかったんだ…。
 ホントはさ、もっと…ちゃんと…。
 
 うつらうつらとしながら、そんな毎日思うような事でぐるぐるしてたら、ホッペを包まれて思考が止まった。
 あ、あったけー…。
「立ったまま寝るな」
 アンジールの大きな手と声にちょっとだけ意識が戻る。
「…寝てなぃよ…?」
「今、寝てただろう」
「……寝てなぃ…」
 それとも寝てたのかな、俺?
 もういいや。どっちだか分かんない。
 でも、アンジールの手が気持ちいいからもうちょっとこのままがいいなぁ…
 なんて思ってスリスリしてたら、アンジールの呆れたような声がやんわりと振ってきた。
「無理して起きて来なくていいんだぞ?」
 そう言って俺の頭をくしゃくしゃと撫でる。

 違うよ、アンジール。
 ムリとかの問題じゃない。
 俺の単独ミッションとすれ違いに、今度はアンジールの単独ミッションが始まる。期限は確か10日間。
 つまり、この時間を逃すと2週間近くも顔も見れなくなるってことだろ?
 だからこれはムリとか、そういう問題じゃないんだ。
 問題じゃない。
 でも…

 実際問題の所、俺の目は開かないし、ものすごく眠い…。
 3日間の不眠不休って、こんなにシンドイものだったのか?
 こんなはずじゃなかったんだけどな…。
 ミッションから帰ってきた後に眠るのは、アンジールが出かけるのを見送ってからゆっくりやるはずだったのに。なにやってんだ俺…。
 
 くしゃくしゃと、頭を撫でてくるアンジールの手が気持ちいい。
 そのまま今度はゆっくりと髪を梳いてくれたりするから、なおさら気持ちよくなる。
 うう…気持ちよくて眠い…。
 ゆらゆらと揺れる頭にまたカクンとなったら、アンジールが小さく苦笑して手が離れていった。
「仕方ない奴だな。ほら、来い」
 来いと言われて重い瞼を一生懸命開いたら、アンジールの背中がうっすらと見えた。迷わずそこにダイブする。
「俺は片手しか空かないからな。ちゃんと捕まってろ?」
「…ぅん…」
 アンジールの首に手を回してしがみ付くと、アンジールの左腕がおしりの下に回ってそのまま持ち上げられた。
 
 これって、おんぶ。
 
 …えへへ。
 気持ちいー。

「起きたなら、下ろすぞ?」
「起きてなぃよ」
「ヘラヘラ笑っているだろう?」
「笑ってなぃ」
「見なくても分かるぞ?」
「ここが気持ちいいからだよ」
「…甘え上手だな、お前は」
 アンジールの肩にピタッと頬がついてると、目を瞑ったままでもアンジールが優しく笑っているのが分かる。
 なんだかんだ言いながらも、俺を下ろそうとはしない。アンジールの方がよっぽど甘やかせ上手だと思う。
 えへへ。
 ぬくぬくほかほか。
 大きくてあったかいアンジールの背中は気持ちがいい。
 バスターソードはいつもここにいいるんだなって思ったら、何だかちょっと羨ましくなった。
 いいよなぁ…アイツ…。



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