■ After The Battle サイドストーリー 
沈黙の繭 
01 誹謗の雨 

  


嵐の夜だった。



辺りは暗く目に映るものは何もない。
見えるのはどこまでも続く闇。
聞こえるのは轟音を立てて落ちる冷たい雨と風の音。

その中を、2人の女が走っていた。

先を行く女の腕の中には、毛布にくるんだ小さな赤子が1人。
後を行く女の大きなお腹の中には、間もなく生まれるであろう赤子が1人。
腕の中の赤子を、お腹の中の赤子を雨から守るように身をかがめて抱きしめたまま、闇に互いを見失わないよう何度も振り向き、声を掛け合いながら励ましあう。
2人の女は『母親』だった。
我が子を守るために、命を懸けて走る『母親』だった。


が、それを嘲笑うかのように、一発の銃弾が後を走っていた女の脚を貫いた。
打たれた女はお腹の中の子供を守るように抱えながら倒れ、その倒れた身体にさらに銃弾が振りかかる。
もう1人の女は悲痛な叫び声をあげながらそれに縋り、泣き叫びながら必死に血を止めようとした。
が、大量の雨水は容赦なく流れ出す血をさらに洗い出していく。
己の死を悟った女は最期の力を振り絞り、言葉にならない声で泣きすがる女に最後の願いを託した。

『…この子を…まもって…』

息絶えた女の傍らで、残された女は後悔と懺悔に泣き叫んでいた。


嵐の夜。

まるで天からの誹謗のように叩きつける雨の中、
毛布に包まれた赤子だけがその光景を黙って見ていた――




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