■ After The Battle 
第一章 
番外編 追走者の本分 02 

  

「…、…くっ…」
 重い身体を丸め、背筋に力を込めて膝を折る。
「…クエイク、使ってもいいなら…もうちょっと楽になんだけどな…」
 自分を奮い立たせるための負けん気を吐きながら腕を突っ張り、膝の上に腹を乗せると、ガタガタと震える肘を延ばして上半身をあげる。
「使えるようになったのか?」
 ヨロヨロとだが、自分の力で起き上がっていくザックスに、セフィロスは決して手を貸そうとはしない。それを封じるように自らの腕を組む。だが視線は外すことなく、ザックスを真っ直ぐに見つめた。
「…ジェネシスが、優先して教えてくれた…まだ、威力そんなにないけど…」
 大きく息を吐きザックスが顎をあげる。重い瞼を微かに開けたが、眩しすぎる世界に再び閉じた。
「確かにこのミッションには有効だな。だが、広域魔法はそれだけ魔力を使う。今のお前にはまだ分不相応だ」
 セフィロスの声を頼りに天と地を確認すると、つま先を立て、踵に重心をずらすように膝をあげる。
「…ジェネシスにもそう言われた…これをミッションで使いたかったら、魔力をつけろ って…」
 そのまま震える膝に腕をつき、力を込めて一気に立ち上がった。が、その勢いと比例するように血の気は下がり、ザックスの視界が一気に白くなる。
「――…」
 あ…、これは倒れるな。と、どこかそんな他人事のように思いながらも、ふわりと解放される意識を留めることが出来ず、ザックスは直後にくるであろう全身の衝撃を諦め、再び崩落に身を任せた。


「……」
 が、予想した痛みはいつまでたっても訪れない。
 いったいどうしたのだろうとようやく薄く開けると、そこには眩しすぎる光を遮りザックスを心配そうに覗き込むセフィロスの真剣は顔があった。
「…セフィロス?」
「無防備に倒れるな。打ち所が悪ければ、再び科研行きだぞ」
 そして不確かだったザックスの背と足を下から支え、セフィロスはザックスを自分の胸元へと抱え上げる。そこまでされてようやく、ザックスは自分は支えられ抱きかかえられたのだと認識した。
「…愚か者に、手は貸さないんじゃないの…?」
 ぼんやりとした視線を向けながらも、間近に感じるセフィロスの匂いに自然と安堵の息がこぼれる。傍にいる、それだけでもこんなに違うのだ。セフィロスは。
「ちゃんと自力で起き上がったからな」
「それだけ…?」
「今のお前に、これ以上の事が出来るのか?」
 今にも死にそうな顔をしながらも口だけは達者なザックスに、セフィロスは小さく笑うと、青白くなった額にそっと口付けた。
「お前が俺を追う限り、俺もお前を見捨てはしないさ」
 その優しい口付けに溶けるように全身の力を抜くと、ザックスは眠りに落ちるようにそっと目を閉じる。
「ぜったいに、おいつくから…」
「そうしてくれ。お前でなければ成し得ない」
 安堵の眠りに落ちたザックスを抱え、セフィロスはシュミレーションルームの出口へと向う。
 先ほどとは違う、丁寧にものを運ぶ足取りの靴音がシュミレーションルームから消えて行った。

 どんなに近くの距離にいても、戦士としては遥かに遠いかけ離れた存在。

 だがザックスはそれを追いかける。迷うことなく、真っ直ぐに。

 いつか共に同じ場所にいるその日まで。







 その後、約束の期限を3日残しザックスは課題のミッションをクリアする。その結果をセフィロスはラザードの執務室で聞いた。
「おめでとう、セフィロス。ザックスはこの難題に見事にクリアした。君の要望通り、彼には対価として君の副官の任を任せよう」
 ラザードの言葉にセフィロスは満足気に口角をあげる。全て自分の思いのままに事が運んだ、そんな笑みだ。
 そんなセフィロスにラザードは眼鏡の奥の瞳を不快気に細めた。
「だがね、セフィロス」
「?」
「今後はあまり派手な要求はしない方がいい。君が執着すれば、嫌でも科研はそれに注目する。あそこは治外法権だ。もう二度と、ザックスが彼らの玩具にならないとは限らないよ?」
「……」
 神羅の中で生きている以上、神羅の闇の力は計り知れない。そんな暗示にセフィロスは顔を背けると、小さな声がつぶやいた。
「…手を貸せないのも、辛いものだな」
 だが、それでもザックスは自分のいる域へと来るだろう。
 それだけをゆるぎなく信じ、セフィロスはラザートの執務室を後にした。
 
 




end.


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