■ After The Battle 
第一章 
第6話 紡 -tumugu- 14 

  

 ダイニングに入ると、そこにはすでに席にについているセフィロスとジェネシスがいた。
 テーブルの上にはコーヒーとミルク、ガーリックトーストと少し焦げたベーコンエッグ、ザックスが好きで常に冷蔵庫に入れてあったボロニアソ-セージに、トマトとほうれん草入りのスクランブルエッグ。卵のメニューが多い…と苦笑しながらもアンジールはザックスが用意したそれに目を細くした。
「よく出来たじゃないか」
「スープもあるんだ! アンジール手伝って」
 アンジールに褒められ上機嫌でザックスはキッチンに立つ。後について行ってやればザックスは突然「あ、そうだ」と足を止め、自分のシャツを捲くりあげ始めた。
「アンジール、見て見て!」
「なんだ?」
「ホラ!」
 そして見せてきたザックスの細い背中には、真っ白な背中があった。昨日まで呪いのように書かれていた文字列はどこにもない白い背中。改めて本当に開放されたのだと、アンジールの胸は熱くなる。と、同時にその白い肌の上にいくつも残されていた赤い印が何であるかを理解したアンジールは、立ちくらみを覚えながらもチラリとセフィロスに視線を向けた。
「……」
 だが何食わぬ顔のセフィロスと、その横でクックッと笑いを堪えるジェネシスに言葉を飲み込むと、小さく咳払いをしてザックスのシャツを下ろしてやった。
「綺麗になったな」
「だろ! セフィロスが全部消してくれたんだ」
「そうか、良かった」
「アンジール、いっつも心配してくれてたから、絶対に見せたかったんだ」
 アンジールに頭を撫でられザックスは嬉しそうにニコニコと笑う。その笑顔にアンジールのさっきまで胸につかえていたものが解けていった。
 どんな道徳よりも、今こうしてザックスは笑っているのだ、それでいいじゃないか。アンジールは再び小さく息を吐いた。ホッとした安堵の息だった。


「ザックス。そろそろ戻れ」
「うん。 あ、アンジール、そっち運んで」
「あ、ああ」
 セフィロスに促され、ザックスはスープ皿を持つとセフィロスとジェネシスの待つテーブルへと運ぶ。
 セフィロスは戻ってきたザックスを抱きかかえると、当たり前のように自分の膝に乗せ、ザックスも当たり前のようにそこに座ると二人分の食事を手前に寄せた。
 その様子にアンジールは驚いて目を開く。
「ザックス…そこで食べるのか?」
「うん」
「『うん』って…」
「俺、これからはセフィロスと一緒に食べるんだ。 はい、セフィロス」
 そう言ってガーリックトーストにスクランブルエッグを乗せると、セフィロスと向かい合わせに向き互いに口を開く。すると、セフィロスも素直に口を開け、ひとつのトーストを2人で端からかじりついた。その光景にアンジールは驚愕の目を見開く。
「な、何をしているお前達!」
「だから一緒に食べる」
「そういう意味なのか! いいから席に座れ! 行儀が悪い!!」
 アンジールに怒鳴られ渋々隣の席に座るザックスをジェネシスは可笑しそうに笑った。
「まぁ、そういうな相棒。どうせ子犬の浅知恵だ、同じものを食べれば同じように大きくなるとでも思ったんだろう」
「そうなのか? ザックス」
「うん。だけどセフィロスは何でもやればいいって言ったよ。な? セフィロス」
「ああ。それでザックスの身体が早く出来上がるなら、俺は構わないが?」
「そんな事でなるわけがないだろう…何でもザックスの好きにさせるな、セフィロス…」
 そうなのか、とセフィロスは真顔で小さく首を傾げる。それを見てアンジールは頭痛を覚えこめかみに手を当てた。
 ザックスの事で失念をしていたが、セフィロスは日常においても戦場においても、いい意味でも悪い意味でも常に常識外だ。特殊な環境で育ったゆえの性質だが、そうである以上、セフィロスが誰かを育てるにはとてもではないが不安が残る。
 アンジールは深くため息をつくと再び決心をした。
「分かった。ザックスはもうしばらく俺が育てる。いいな、セフィロス」
「構わないが、夜は返してもらうぞ」
「気にするのはそこか」
「"お父さん"から"教育係"に転職か。寂びしんでる間もないな。良かったじゃないか、相棒」
「あ、アンジール! 俺、ハードラッシュ覚えたい! あとセフィロスとジェネシスの必殺技も!」
 それぞれがそれぞれの言いたい事を言い、賑やかな会話が続きなから時間は進む。
 それはあらゆる試練と犠牲の上に作られた大切な平穏、そして基盤。
 これから4人はこの基盤の上に、いくつもの固い層を積み重ねて行くのだ。
「本気か? ザックス」
「うん! そんで俺、三人の必殺技を覚えられるくらいすっげーソルジャーになるんだ!」
「いいだろう、それくらい出来てもらわねば困る」
「覚えてみせろ、子犬。その時こそお前を1stと認めてやる」
「よぉし! 絶対になってやる! なってみせるからな!」



 いつか
 その足元の底に眠る崩壊の核が、動き出す時まで―――







end.


 
 


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