■ After The Battle 
第一章 
第5話 終焉の月 14 

  
 
 
半年後―――。



「よく頑張ったね、ザックス」
 執務室にやってきたザックスを前に、ラザードは静かに微笑んだ。
「今日で約束の一年だ。本日付で君はcode-"D"から解放され、完全にソルジャーの一員となる。よろしく頼む」
 その言葉にザックスは大きな瞳を見開き輝かせると、飛びつくようにラザードのデスクへと身を乗り出した。
「じゃあ、俺はもう科研に行かなくていいの? セフィロスも?」
「残念だが、とは限らない。ソルジャーと科研は切っても切れない関係にある。大きな治療が必要とされた時は科研を頼らざるを得ない。定期健診もまた然りだ。だが、今までのようにそれを機に無意味な実験を繰り返されるような事はない。むろん、セフィロスも自由だ」
「やった! これでセフィロスに会える!」
 両手で握りこぶしを作り身をかがめ、その場で足踏みをするようにザックスは喜び跳ねる。
「君ははれてセフィロスのものとなる。この意味は分かるかな?」
「分かる! セフィロスと一緒にいられるんだろ!」
 あまりにも無邪気にはしゃぐザックスに、本当に分かっているかとラザードは困ったように首を傾げた。が、これ以上ここで何か言うのは野暮というものだろうと、頭を振る。たとえそれがどんな事であろうと、きっとザックスは嫌とは言わないのだろうから。
「そこは任せよう。それからザックス、もうひとつ大事な話だ。君は本日付でクラス2ndへ昇進となった」
「え? でも俺、何も活躍してないけど…」
 あまりにも意外すぎる昇進のタイミングにザックスが戸惑い驚くと、ラザードは今度は自信を持って頷いた。
「君はcode-"D"という過酷な環境で1年間生き抜いた。それは2ndの能力に匹敵すると私が判断したんだ。ただし、2ndになった以上、これからの任務は重い。もちろんその期待にも応えてもらわねばならない、出来るかな?」
 ザックスは口元を引き締め、ギュッと拳を握るとドンを胸を叩く。
「もちろん! 任せて統括!」
 見た目は誰よりも小さく細いだが、誰よりも澄んだ瞳の色でザックスは頷く。史上最年少のソルジャー2ndの誕生だった。
 
「2ndの制服は支給ポッドに入っている。さっそく着替えてくるかい?」
「これから仕事?」
「いや。君とセフィロスには気持ちばかりだが休暇をあげよう。私からのプレゼントだ」
「なら、最初はセフィロスに見せたい! いい?統括!」
「そう言うと思ったよ。構わない、行っておいで。セフィロスがどこにいるか分かるかい?」
「もちろん! 俺、どこにいてもセフィロスは分かる!アンジールもジェネシスもきっとそこにいる!」
「そうだったね。構わないよ、行きなさい」
「ありがとう! 統括!」
 じゃあね!と片手をあげて子供のように駆け出していくザックスに、ラザードは仕方ないとばかりに眉尻を下げて見送った。

 最初は、何も知らぬままやってきた元気がとりえなだけのただの子供だと思っていた。
 だが彼は、驚くスピードで主要な人物と次々に縁を繋げその輪の中に入ってくる。そして、普通では生き残れない過酷な試練を生き延びた。
 それはすでに、ラザードにとって見過ごしていい存在ではない事を意味する。
「…本格的に計画を変更しなければならないな…」
 ラザードはひとり呟くと、背もたれに体重を預け瞼を閉じる。やがて深い思考に中に沈んで行った。





 薄い空色から紫色へ。ソルジャーの制服はクラス毎に色で分けられている。ザックスは、そのクラスをひとつ上がった。
「よし、次は1stだ!」
 真新しい制服に袖を通した直後に新たな目標を口にして拳を握る。まだ2ndになったばかり。だが目指す場所はさらに上なのだ、ここで満足してはいられない。
 だが今は…
「いそげ、俺!」
 押さえきれない喜びに笑顔が溢れ、いてもたってもいられないとばかりに更衣室から飛び出し、ソルジャーフロアを走り抜ける。
 エレベーターの前で2回ほど足踏みをしたが、すぐに決心すると非常階段に回り駆け上がった。
 ほんの僅かでもエレベーターなんて待っていられない、じっとなんかしていられないのだ。もう1秒だって惜しい。
 ここミッドガルに来てから確かに感じていたその人のいる場所、近くて遠いその場所に今度こそ行けるのだから。

 駆け上がった階段の先、確かな気配がそこにある。

間違いない、ここにいる。


 フロアのカードキーをさせば機械音と共に容易に開く鍵。

もうザックスを止めるものは何もない。

 
 一歩一歩走る度に近づく距離にザックスの心臓は高鳴り呼吸が速くなる。

近い、そこにいる。


 そして、今まで決して開く事の無かった執務室のドアが、ザックスを招き入れるようにその場を退いた。



ザックスが広げたその両腕を、何よりも待ちわびていたのは―――



「セフィロス!」











『待ってる』


『うん、やくそくだ』


 
 
 







【第5話・完】



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