■ After The Battle 
第一章 
第4話 黄泉の密約 01 

  
 

黒い世界の中に、ザックスはいた。


闇とは違う。
ただの黒い空間。
光のない空間だ。

天も地も音もなく、己の身体の重さもない。

その中をゆうらりと、
ただ、ゆうらりと漂う。

そんな黒い世界の中に、ザックスはいた。



『生死の狭間』



誰かの言葉がザックスの意識の中を通りすぎる。
あれは……確か…


時間の概念の無い中では、それがいつの事だったかも分からない。
記憶は全て走馬灯のように浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返し、追うことすらままならない。
だが、捕まえなければならない。
それが約束だったからだ。


『決して自分を、見失うな』


ザックスは必死に通り通り過ぎる言葉に意識を伸ばす。
見えたのは、赤い膜に覆われた自分の視界。
その中で怒りながら心配してくれた人。



それから、


『行こう、ザックス』

大きな剣を背に、いつも安心をくれる人。



そして、


『待ってる』

銀色の柔らかな糸をまとった………


「セフィロス―――」


その名に、ザックスの意識がひとつに纏まり覚醒する。
黒い世界は変わらない。だが、その天か地か分からぬ遥か遠い先には、いくつかの違うものが見えた。

ひとつは、緑色に光る流れ。
ゆうらりと流れる、穏やかな光。

もうひとつは、暗くうごめく闇。
悪しきものを発するこの黒い世界よりも深い闇の世界。


ザックスは迷わずその闇を選んだ。
そこがどんな世界かは関係ない。
目指す場所が、そこにある。
だからそこを選んだ。



だが―――



「…行けない…」


選んだ方向に身体が進まない。
それどころか、少しずつ、少しずつ、光の帯へと引き摺られて行くようだった。


少しずつ、少しずつ、ズルズルと…


ズルズルと



「セフィロス…セフィロス……!」



蜃気楼のように儚い銀の糸を求め、
ザックスは必死にその手を伸ばしていた。






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