■ 天空のひまわり 01 種まき |
「はじめまして、セフィロス。俺はアンジールで、こっちはジェネシス。よろしく」 微笑みながら差し出されたその手を、小さな神羅の英雄は握り返そうとはしませんでした。 【天空のひまわり】 「なんだあの無表情!まるで人形だ!俺、アイツ大嫌いだ!」 「そう言うなよ、ジェネシス。ずっとセフィロスに会うの楽しみにしてたじゃないか」 「でも、…キライだ」 アンジールとジェネシスは引っ越し荷物を整理しながら、先ほど会ったセフィロスの事を話していました。 2人はまだ7歳。小さくとも遠いバノーラ村からこのミッドガルに来た勇気ある子供達です。 一番の楽しみは『英雄セフィロス』に会うことでしたが、実際に会ったセフィロスは眉ひとつ動かさず、何の関心も示さないまま、ただ無表情にそこに立っているだけでした。 「……キライだ」 「ジェネシス…」 セフィロスに会うことを一番楽しみにしていたのはジェネシスでした。 2つ年上の自分達が兄貴分になって、一緒に英雄になるんだとはりきっていたのです。 でも、その夢は最初の一歩を踏み出す前にくじかれてしまいました。 涙ぐみながら口を真一文字にして堪えるジェネシスをどうやって慰めようとアンジールは一生懸命考えましたが、どうしてもいいアイデアは浮かびません。 その時です。 「あ…」 アンジールの荷物の中から小さな袋が出てきました。 「これは確か…」 そしてその中身を見た時、アンジールの顔はパッと輝きました。 「ジェネシス!俺にいい考えがあるぞ!」 アンジールがジェネシスに見せたその小さな袋の中のものに、ジェネシスは複雑そうに顔を歪めました。 「おはよう、セフィロス!俺と一緒にひまわりを育てよう!」 翌日、ジョウロを入れたバケツを片手に、アンジールがセフィロスの部屋にやってきました。 「……」 セフィロスは変わらず無表情でしたが、その視線はアンジールのおでこをしっかりと見ていました。 そこには絵に描いたような大きなコブがあったからです。 その視線に気がついたアンジールは照れ隠しに頭に手を伸ばします。 「こ、これはそのジェネシスとケンカして…イテテ」 触った途端に激痛に襲われ、アンジールはしゃがみ込みました。 昨日のことでした。 『ジェネシス!俺にいい考えがあるぞ!』 そう言ってアンジールが差し出したのは、小さなひまわりの種でした。 『これをセフィロスと一緒に育てよう。絶対に仲良くなれる!』 植物を育てるのが大好きなアンジールは自信を持って言い切りました。 が、植物につく虫が大嫌いなジェネシスは、腹の底から声を出して言ったのです。 『ば…っっっかじゃねぇの!お前!』 そこから部屋の中がしっちゃかめっちゃかになるほどの大喧嘩が始まり、アンジールがソファから飛び上がった拍子に壁の角におでこをぶつけ、しこたま大きなコブを作ったのでした。 「慣れない部屋でのケンカは良くないな…イッテー…」 アンジールが若干間違っている反省点をボヤきながら呻いていると、セフィロスはその額に左手をかざします。 すると、セフィロスの左手からホワリと緑色の光があふれ、アンジールの額がその光に包まれました。 「?!」 瞬く間にすーっと光に吸い込まれて行くようにアンジールのコブも痛みも無かったかのように消えていきます。 それはセフィロスのケアルでした。 「あ、ありがとう…凄いな、セフィロス」 まだマテリアが使えないアンジールは心から尊敬して言いましたが、セフィロスは首を傾げます。 物心がつく前からマテリアが使えたセフィロスには、いったい何が凄いのか分からなかったのです。 けれど、その首を傾げる仕草こそが、アンジールが初めて見るセフィロスの『感情』でした。 「行こう、セフィロス!」 アンジールは嬉しくなって立ち上がり、セフィロスの手を引きます。 セフィロスが驚いて少し目を大きくしたので、アンジールはますます嬉しくなりました。 これは驚きという『表情』。セフィロスは決して無表情なお人形ではないのです。 「絶対に楽しいから一緒にやろう!」 左手にはバケツ、右手にはセフィロスの手を握ってアンジールははりきって歩きます。 ずんずんずん。 左手を引かれ、その後をセフィロスがついて行きます。 とことことこ。 ずんずんずん。 「セフィロスはひまわりって知ってるか?綺麗でデッカイ花なんだ」 「……」 セフィロスは黙ってついていきます。 「背も高いから、もしかしたらセフィロスより大きくなるかもなー」 とことことこ。 セフィロスの左手はいつも刀を握っていました。 冷たい刀を握るための左手でした。 「……」 今はその手が誰かに包まれ、ほんわりと暖かくなっています。 それは、セフィロスには初めての経験でした。 アンジールがひまわりを育てる場所に選んだのは、神羅ビルの屋上でした。 「植物には、太陽と水と土と風がいるんだ」 そういいながらアンジールは小さなコップのような植木鉢に土を入れていきます。 「この真ん中に指を入れて種の場所を作ってあげるんだ。こうやって」 お手本のようにアンジールは土の真ん中に指を指して種を入れます。 セフィロスもマネをして他の植木鉢に指を指しました。 「そうそう、上手だなセフィロス」 アンジールはとても誉めてくれましたが、セフィロスはそこには無関心でした。 生まれたときから『とくべつ』で、何でも出来るセフィロスには出来て誉められるのは当たり前だったのです。 「種は10個あるから、10個作ろう」 それでもアンジールはニコニコと笑いながら作業をします。 そうやって10個の小さな植木鉢を作ると、最後に優しく水をかけてあげました。 「仕上げはこれ」 そういってアンジールが出した小さな札には『セフィロスとアンジールのひまわり』と書いてありました。 「……」 「これから毎日水をあげるんだ。明日から毎朝向かえに行くから、一緒にがんばろうな!」 「………ぃっしょ…?」 それはセフィロスの小さな小さな声でした。 でも、アンジールは初めて聞いたその声に満面の笑顔で答えます。 「そうだ!いっしょにだ!」 「………」 いつも『とくべつ』で何でも出来るのが当たり前だったセフィロス。 だから誰かに『いっしょにがんばろう』と言われたのは初めてだったのです。 「これも一緒に差そう、セフィロス」 「………ぃっしょ…」 そう言って2人で札を持ち、土に差しました。 「一緒だ」 まだ何もない土の上に『セフィロスとアンジール』の名前があります。 「いっしょ…」 セフィロスは頬を染めて、ほんの少しだけ嬉しそうに笑いました。 |
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