■ 「あと5分」の雨音 

 

「あ…、雨だ」

 暑い晴天が何日も続いた夏の日の朝。
 目を覚ましたクラウドがカーテンの向こうに目をやると、ポツポツと降る小さな音と共に、窓を流れ落ちる水の影が映っていた。
 雨音以外には何も聞こえない。雨の日の静かな朝だ。

「今日は少し涼しくなるかもな」

 クラウドの隣で寝ていたザックスも続いて目を覚まし、サイドテーブルに置いてあった携帯を手に取ると天気の情報を確認する。

「…残念。もう少しで雨、止むってよ」
「止んじゃうの?」
「んー。あと5分か、10分くらい?大した雨じゃないみてぇ」
「そっか…」

 涼しさも気休め程度かもな。と、ザックスは携帯を元の場所に戻すと再びベッドの中へ潜り、クラウドを引き寄せ自分の腕の中に閉じ込める。

「でも俺は、雨より曇の方が好きだからいいや」
「……!」

 クラウドのハニーブロンドに頬を寄せ、ザックスは気持ち良さそうに笑う。ザックスの見えない所で、クラウドは頬を少し赤くした。
 名前の持つ意味を使って例えるのはいつものこと。
 それに愛情を織り交ぜながらザックスは当たり前の事のように言う。
 クラウドからの気の効いた返事を要求するでなく、反応を楽しむわけでなく、ただ自分の気持ちをありのままに素直に言える。クラウドには到底マネの出来ないスキルだ。

「……」
(…俺も…雨より太陽の方が好きだよ…)

 そう思っても言葉には出せないクラウドは、黙ったままギュッとザックスのパジャマを掴んだ。
 ザックスにはそれだけでも充分伝わる。

「…ありがと」
「…何も言ってない…」
「そう? 聞こえたけど?」
「…察しが良すぎだよ、ザックスは…」
「そうかな」
「そうだよ。そんなんじゃ、ますます…」
 言えなくなる。
「そうか…、それは困るな」

 だが言葉とは裏腹に、少しも困った様子の無い表情で幸せそうにクラウドを抱きしめる。
 そんなザックスの心地よさに、クラウドは素直に目を伏せた。


「…起きなくていいの?、ザックス」
「もう少し、時間あっから」
「あとどのくらい?」
「そうだなー…丁度、雨があがる頃かな」
「…そか」
「うん」


 ポツポツポツと、雨は降る。
 全ての音を閉ざして、雨は降る。
 こんな日のザックスの腕の中は心地いい。


「ずっと…、あがらなきゃいいのに…」
「!」

 たまにしか飛んでこないクラウドの剛速球の素直さに、今度はザックスが頬を赤くした。

「……クラウド…それ、不意打ち……」


 ポツポツポツと、雨は降る。
 この雨があがるまで、あと5分。







end.







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