■ 年末年始はコスタで我侭(年末編) 

 

フリフリフリ…

 子犬が尻尾を振っている。

フリフリフリ…。

 振った尻尾であちらこちらを撫でている。

フリフリフリ…。

 器用なものだな。最近の犬は尻尾の取り外しが出来るのか。

フリフリフ…ピタッ。

「なぁ、さっきから何見てんの?」
「お前の尻尾がピンク色だとは知らなかった」
「誰の尻尾がピンクだ!これは埃取り!アンタはハンディワイパーも知らないのか!」
 そう言ってザックスが俺に突き出してきたのは棒の先にもふもふしたピンクの綿らしきものがついたもの。どうやら何かの道具らしい。
 なんだ、尻尾ではなかったのか…それは残念だ。

「それで?その尻尾で何をしている?」
「だから尻尾じゃねーってば!見て分かんない?掃除だよ掃除!年末の大掃除!アンタの事だから雑巾のひとつもかけられないだろうと思って、俺が来てやったの。どうよ、気が効くだろ?」
 そう言いながらザックスは鼻高々と胸をはる。
 だがいかんせん『雑巾ひとつ』と言った本人の手に雑巾はなく、持っているのはピンクの尻尾ただひとつだ。大掃除の『大』の意味はどこにあるんだ?
「ハウスクリーニングなら毎日入っているが?」
「知ってる…。だからこれくらいしかすることが無いんだ。全く、気持ち悪いくらいいつも綺麗な家だよな、本当に住んでんの?」
 ピンクの尻尾を振り回しながらザックスは不服そうに唇を尖らせた。
 特に家には綺麗も汚いにも感心はなかったが、いつも綺麗だと気持ち悪いものなのか?それは初耳だ。
「では、綺麗にするなとハウスクリーニングに伝えておく」
「え?!い、いいよ言わなくて!俺が怒られんだろっ!」
「気持ち悪い方がいいのか?」
「んなワケないじゃんっ」
「ならばハウ「あー!待てって!そうじゃなくて!綺麗なのはいいんだ綺麗なのは!そうじゃなくて、うーん……なんて言ったらいか、ん~…」
 そう言いながらザックスは何度も頭を捻る。
 ハウスクリーニングの有無に関わらず、俺はザックスに快適に過ごして欲しいだけなんだが…いったい何に悩んでいるんだ?
「お前は難しいな」
「難しくなんかねーよ。こう見えても『神羅で一番わかりやすい』って言われてるんだぞ?」
 …だろうな。それは分かる。
 では俺もその『わかりやすい』方で解釈してみようか。

「…いったい何が欲しいんだ?」
「!」

 俺の一言にザックスの顔が一気にパアアっと輝いた。
「休暇!!コスタでの新年のカウントダウン花火が観たい!もちろん2人で!」
 『大掃除』もそっちのけで俺の元に飛び込んでくる。なるほど、本当におねだりだったのか。
「今からか?年末年始は通常でいいと言っていたじゃないか」
「だってそれ知ったの最近なんだもんよ。なァなァ、行きたい!」
 ダメ?ダメ?と右に左に首を傾げ、その度に手にした尻尾が揺れる。
 カウントダウン花火とやらには興味が無いが、このチラチラを揺れるピンクの尻尾は妙に気になるな…。

「我侭だってのは分かってるけど、どーしても今年行きたいんだ!お願い!セフィロス!」
 両手を合わせ必死に祈るザックスの手には、やはりあのピンクに尻尾。


 ふむ…。


「…いいだろう」
「マジで?!やったー!ありがとうセフィロス!!」

 大喜びで俺に抱きついてくるザックスに背中をポンポンを撫でる。
 これだけ喜ばせてやったんだ、俺の我侭も聞いてくれるだろう。もっともその内容は今は言わないが…。


 花火♪花火♪と喜ぶザックスを片腕の中に収めたまま、俺はさっそくそれを叶えるための準備を開始した。







end.












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