■ 神様のいうとおり 


 
 新年の初詣で賑わうウータイの参道をザックスと2人で並んで歩く。

「年齢は?年齢はいくつからいくつまで?」
「ん~。特に年齢は関係無いかなー。犯罪レベルになる子供とか、あんまりお年寄りでも困っけど」

 神羅との戦争は終ってるとはいえ、ウータイの中には神羅をよく思わない人は多い。ほとんどと言ってもいい。
 にも関わらずこうしてその中を歩けるのは、ザックスがウータイ兵を一人も殺さずにいたソルジャーだからだ。
 戦争の傍ら、長の一人娘のしつこいスパイ遊びにも辛抱強く付き合い、最後には本物のピンチを助けた事をきっかけに和解へ進んだ事もあって、ザックスはウータイの人から特別に認められてる。
 すごいだろ?人を助けた上に戦争まで止めちゃったんだぞ?まさに、ザックスは俺の理想とするソルジャーだ。

「じゃあ身長は?」
「それも関係ないかな。まぁ、俺がこんなんだし、俺より背が高い人のほうが少ないだろ?」
「そうだね、ザックスは背も高いもんな」
「ソルジャーとしてはまだ小さい方だけどな。ソルジャーになると自然と身体が大きくなるんだってよ、不思議だよなァ」

 そんなザックスに聞いているのは『恋人の条件』。本当はさりげなくチェックしたい所なんだけど、さりげなくやるとザックスは全く気が付いてくれない。ビックリするほど鈍いんだ。

「じゃあ、収入は?」
「え~、そっちの方がもっと関係ないだろ。俺がちゃんと食わせるし」
「ザックス、カッコイイ」
「だろ?だろ~?」

 駆け引きには鈍いけど褒めるとすぐに調子に乗って胸を張る。今もそう。単純すぎだよね。
 ま、そこもザックスのかわいい所なんだけどね。

「んーと、あとそれから…」
「まだあんの?」
「え?飽きた?」
「いんや。でもクラウドがそういう事を聞くのって珍しいと思ってさ」
「ふふ、俺、今年は飛躍の年にしようと思ってるからね」
「???」

 何の事だか分からずに、ザックスはポカーンとする。その丸っこい目が犬っころみたいに可愛くて、俺の顔は思わず綻んだ。

「ほら、順番だよ。お参りしようザックス」
「お、おう」

 いつの間にかゴールであるウータイのダチャオ像の前に着いていた。ザックスと話しているとどの道もあっという間だな。

「ザックスいくら入れる?」
 胸ポケットからサイフを出すといくつかのコインを探した。俺的には今年は10000ギルくらい入れたい心境だけど、それをザックスに見られたらさすがに引かれるかもしれないしな…うーん、どうしよう。
「100ギルくらいでいいんじゃね?」
「ザックスがそうなら俺もそうしよ」
 賽銭箱に100ギルを投げて手を合わせる。と、横を見たらザックスは100ギルの他にマテリアを2つ取り出した。
「ザックス?なんでマテリア?」
「ダチャオ像に国外の人間がお参りするにはマテリアを添えて出すのが正式なんだってさ。ウータイのチビが言ってた。ひとつはクラウドの分な?」
 そう言って賽銭箱の上にザックスはマテリアを2つ置いて手を合わせる。もちろん賽銭箱にマテリアなんか入るワケないから、賽銭箱のレールに沿ってマテリアはコロコロと転がった。
「……正式?」
 気になって周囲を見渡してみると、遠くの木陰から一人の子供がニヤニヤしながらこっちをジっと見ていた。やんちゃで有名な長の一人娘だ。
 なるほど…察する所、また騙してんだな、ザックスを…。
「ほら、キョロキョロしないでクラウドもお祈りしよーぜ」
「う、うん」
 ザックスに促されて俺も手を合わせた。
 ……ま、いいや。本当に騙されちゃってたとしてもそんなザックスは可愛いし、騙されたふりをしているとしても、やっぱりザックスは優しい。
 なによりそれで俺の分も用意してくれた所が嬉しい。
 それに、差し出されたのが回復系のマテリアだった事にも関心した。これならウータイの人にも役に立つ。さすがはザックス!
 こんな所にまで気を配れるザックスがますます好きだと思う。
 
 ああ、ダチャオ神様!どうか、ザックスに俺の思いが届きますように…!



 真剣に真剣に何度もお願いしてから、やっと顔をあげた。おれのそれを待っていたのか、ザックスも顔をあげる。
「ずいぶん念入りだったなぁ、クラウド」
「うん、まぁね。ね、ザックスは何をお願いしたの?」
 ダチャオ像から離れながら聞くと、ザックスは少しだけ困ったように眉尻をさげて笑った。
「俺のはお祈りじゃなくて『お詫び』。この地で戦争をしてごめんなさい…ってね」
「…え?」
 そのザックスの言葉に俺の目は見開く。
 そうだ、いくら和解しているとはいえ戦争があったのは事実、そしてそれを仕掛けたのは神羅だ。俺はウータイ戦には参加していなかったけれど、神羅の人間である以上関係無いとはいえない…。
「…俺、自分の事しか考えてなかった…」
 頭から抜けていた現実にスッと血の気が引いた。
 勝手に浮かれていた事が恥ずかしい…。
 けど、沈みかける俺の頭を引き寄せると、ザックスはあの太陽のような笑顔で笑った。
「それでいいんだよ。皆それぞれが自分の未来を思わなきゃ、世界も未来へ向かえないだろ?生き残った俺達は、みんなで未来を作るんだ」
 そう言ってザックスは元気付けるように何度も何度も俺の頭を撫でる。
 クシャクシャ
 クシャクシャと…
 それに揺らされながら、俺の鼻の奥は小さくツンとなった。
 ああ…

 ああ、もう!

 もう!大好きだ!


 切なさを交えながら、俺の心は爆発する。

 誰よりも強くて優しいザックスが大好きだ!



「ほら、クラウド。元気出しておみくじ引こうぜ?」
「う、うん」
 ザックスに腕を引かれて六角柱の木の箱を振る。出来てた番号は『への六』。その番号の紙をもらう。書いてあったのは…
「なんて書いてあった?クラウド」
「……」
「クラウド?」
 そこに書いてあった文字に、俺の手が震えた。
「ザックス!」
「え?」
 周囲の人の存在など気にも留めずに、ザックスの腕を掴む。

「さっきの続きだけど、性別も関係ないよね?!」
「は?」
「俺、誰よりもザックスを幸せにするから!絶対に幸せにしてみせるから!!」
「は?…へ?え?」
「だから付き合おう!!」
「はぁ?!クラウド、お前急に何言ってんの?!?!」

 俺の突然の告白にザックスは驚きながらも頬が桜色に染まる。
 そんな初めてみたザックスの表情に俺の興奮はますます高揚した。
 よし!この反応ならイケる!ありがとうダチャオ神!

「見て、これ!俺のおみくじ!『大吉。待ち人:迷わずに狩れ』だって!神様は俺の味方だ!」
「はぁ?!まさかそんなおみくじが…って、うおおーー!マジで書いてあるーーーッ!!なんじゃこりゃーーッ!」
「これからは俺がずっとザックスを守るよ。安心して身を任せて」
「え?!まさかのそっち?!」

 俺が引いたおみくじを持ちながらアタフタと、それまでの桜色だった頬が白に青にめまぐるしく変わる。ザックスって本当に面白い。
 というか、何が「まさか」なんだろう?
 ザックスは『子犬』なんだから、人間である俺が可愛がるのは当然じゃないか。
 それに、これはダチャオの神様の御指示なんだ。俺が狩って然るべきだよ。

「これからは、俺がずっと抱いてあげるよ」
「いやいやいや!待てってクラウド!ちょっと待とう!…な?ちょっと待とう!」
 オタオタしながら後ずさりするザックスの腕を放さないように掴む。俺は神の啓示を受けた狩人だ、逃がしてなるもんか!
「ザックス、これはダチャオの意思だよ?それとも俺じゃ嫌?」
「いや、嫌いなワケ無ぇよ?ただ、そうじゃなくて…」
「じゃあ何?」
「え、えと…えと…」

 ザックスの視線が動く2枚のおみくじ。1枚は俺のだけど、もう1枚はザックスのだ。
「…ザックス。それ、見せて」
「あ」

 ザックスから奪い、ザックスが引いたおみくじを広げた。




 『大凶。待ち人:逃げるが吉』



「………」
「ク、クラウド…その、さ、…おみくじってホラ、運だめしみたいなもんだし…な?」

 どういう意味でフォローしてるのか今いち不明なザックスの前で、俺はライトアップされたダチャオ像を睨みあげる。
 ダチャオの顔が笑っているように見えるのは俺の気のせいか?いや、違う。ヤツは確実に笑っている。

「ク、クラウド?顔が怖いよ…?」

 ……いい度胸じゃないか、…ダチャオ…

「…見てるが、いいさ…」
「…クラウド…さん…?」
「必ず!俺は狩り落としてやるからな!!」

 高々と拳を上げてダチャオ像に宣言をした。
 当然だ!『迷うな』と言ったのはそっちなんだからな!

「行こう!ザックス!」
「ヒィィィィ!」
 気合充分の俺の横で、ザックスはやたらと細い声の悲鳴を上げる。その悲鳴の意味はよく分からないけど、でも気にしない。
 ザックスは俺がもらうんだ。


 これからの未来、俺はザックスと共に作っていくよ。 





end.











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