■ After The Battle 
第一章 
第6話 紡 -tumugu- 02 

  

「ザックス、こっちへ」
 二人で初めて迎える夜。セフィロスはベットサイドにザックスを立たせると、その漆黒の髪を愛おしげに撫でた。
「お前の身体に描かれた文字を、全て見せてくれ」
 ザックスは言われるまま素直にニットに手をかけると、真新しい2ndの制服を脱いでいく。
 2ndになった!と、1stである三人の前ではしゃぎながら報告をしたのはほんの数時間前。あれから四人で祝い、今は眠りにつくためにセフィロスの部屋へと帰ってきた。今夜からここが、ザックスの家になる。
「これが、全部」
 静まり返った寝室に響いていた衣擦れの音が止み、やがてザックスは一糸まとわぬ姿でセフィロスへと背を向けた。
「ずいぶんと、派手にやられたな」
「うん…」
 セフィロスが伸ばした手の先には、柔らかな間接照明の灯りの中に白く浮かんだザックスの細く小さな体があった。
 その背中には数多の文字が張り巡らされ、それらの文字は毒が広がるように腰から足、下腹へと伸び、腕にも飛び火する。そのひとつひとつの全てがザックスに施された人体実験の証であり、狂気の刻印でもあった。
「気持ち悪くない?」
 心配そうに肩越しに聞くザックスにセフィロスは小さく首を振る。
「そんな心配をするな。それに…お前をこんな風にしたのは、俺だ…」
 セフィロスはザックスの背中を引き寄せると、包み込むように後ろから抱きしめた。 
「もっと他に方法があったのかもしれない…すまない」
 6年もの間、ザックスを待った。誰にも言わず近づくこともしないまま時がたちザックスが自ら自分の元に来ることだけを待った。
 だからザックスが13歳になったあの年、一刻も早く自分の元に来させたくてラザードに申告をしてしまった。"今年やってくるザックスという名の新兵に特例処置をして欲しい"と。そして、そこから悪夢が始まったのだ。
 苦しげに言葉を漏らすセフィロスの腕をザックスはポンポンと励ますように叩いた。
「セフィロスが悪いんじゃない。これをやったのは科研だし、そうしていいってサインをしたのは俺。よく分からなくてやったことでも、自分がやった事実は認めなきゃ駄目だって、アンジールにも言われた。それに俺…、後悔してない」
 ザックスはセフィロスの腕の中で体を反すと、背の高いセフィロスの顔を真っ直ぐに見上げた。
「今ここにいれて良かったって思ってる。たくさんの人に迷惑をかけたし、他の方法があったかもしれないけど…、でも俺は自分で選んでここまで来た。セフィロスがいる所へどうしても行きたくて、一緒にいたくてここまで来たんだ」
「……」
 セフィロスの腕に力が篭り、ザックスの体に銀の髪がかかる。
「そこで何があっても覚悟する。何が起こっても、全部一緒に連れて行く。痛いことも苦しいことも全部抱えたまま、俺…」
「……」
「セフィロスといる」
 7年ぶりに聞いたその言葉にセフィロスはザックスを引き寄せると、その唇に思いを込めて口付けた。


 7年ぶりのキスだった。
 セフィロスはザックスの柔らかな唇を啄ばみ、その隙間から漏れる吐息も逃さなぬよう塞ぎ軽く吸い上げる。
 何度も繰り返される甘いくすぐりのような口付け。それは幼い日のそれとは違う、大人の世界へ導くための誘惑。
 決して深くはない優しいその口付けは、しだいにザックスの体の中にうっとりとする甘い疼きを覚えさせていった。
「…セフィ…ロス」
「なんだ」
「ぁ…ぁの…」
 言いかけた言葉の続きをどうしていいか分からず、ザックスは視線を外しモジモジと身を揺する。セフィロスに抱きしめられ死角になっているとはいえ、自分は全裸のままだ。これでは僅かな変化もすぐにバレてしまう。それがとてつもなく恥ずかしい。  
「その…。服、…着ていい…?」
 セフィロスはゆっくり口角をあげるとザックスの体を軽々を持ち上げ、ベッドへと落とした。
「わ!」
「その必要はない」
 そしてそのまま、ザックスの上に覆いかぶさると潤み始めた瞳を覗き込む。
「このまま抱く」
「!」
 途端にザックスの全身は真っ赤に沸騰する。
「逃げてみるか?」
「……」
 間近で見る翡翠の瞳と素肌を掠める銀の髪の囚われ、ザックスは唇をキュッと結ぶ。そのまま伏し目がちに俯くと、首を小さく横に振りセフィロスへと腕を回した。



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